男になっても君が好き
これは、私………!!!?
いつも通り髪をとかそうと鏡をのぞくと、そこには……
イケメンがいた。
え…ええええぇぇ!!!!!!????
ちょ、ちょっと待ってよ!
なにこれ、信じられない………!
昨日の夜までの美人はどこにいったのか。
目が覚めたら学園一の美女と称された彼女は、イケメンになっていた。
……。
……………。
いや、ちょっと落ち着こう。
これは、夢……?
とりあえず、私はググッた。
そこに出てきた文字は……
《アクセスエラー》
………………。
……。
「おい。」
スマホが飛んだ。
ガシャン!
あっ……
私はそれを拾いあげ、とりあえず深呼吸をしてみた。
まず、最初に頭に浮かんだのは…
(今日、学校じゃん。)
私はスマホの画面をのぞいた。
《6:50》
まだ、余裕で間に合う時間だ。
問題は…制服。
私は制服を掛けた部屋に向かった。
私はそこに当たり前のように吊るされている制服を見て、その場に倒れ込んだ。
は、はははは。
待って、本当なんなのこれ…。
「どうしてセーラー服が学ランに変わるわけ!!?」
思わず、叫んでいた。
はぁはぁ…
その声でお母さんが起きたらしい。
足音が近づいてくる。
え、これは…大丈夫なの…かな?
朝起きたら娘が男になっている。
そんな事実を果たして受けいられるだろうか。
私はハラハラしながら、足音を待った。
ガチャッ
ドアが開く。
「あら、どうしたの蒼。早く着替えなさい?」
……え?
………………。
どうやら、おかしくなったのは私らしい。
そうか、私は元から男だったのか…
確かに、それなら納得かもしれない。
私は、そっと自分の胸に手を当てた。
「………って、んなわけあるか!」
いや、確かに元からないけど、こんな…こんなゴツゴツしてないし!
もうわけがわからなかった。
(学校に行けば、わかるかな。)
私は、とりあえず着替えることにした。
人生2度目の、学ランというものに…………
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電車で20分、とりあえずSNSのトーク履歴をあさった。
驚くことに、真っ白。
本当にわけがわからない。
でも、「友達」の数だけはかわっていなかった。
駅から徒歩5分で学校に到着。
私は、ビクビクしながら教室の前に立った。
「よお!藤堂っ」
誰かが肩を叩いた。
びっくりして振り向くと、そこには悠がいた。
「お、おはよ!悠。」
思わず声が裏返る。
悠は気にせず自分の席へ向かった。
私もとりあえず席に着き、考えた。
(あれ、私が男になったってことは、悠とは…?)
………。
………………………。
頭がクラクラする。
そんなの、やだ。
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悠とは、高校1年生のときの部活見学で知り合った。隣でバスケをする悠に私の一目惚れ。それからいろいろあって、高3の春にやっと彼カノになれたのに……。
私は、絶望した。
まさか、悠とのことがなかったことに…!?
せっかく、勇気を出して初めて告白して、やっと…本当にやっとの思いでOKもらえて、まだ…3ヶ月もたってないのに………
頭を抱えていると、チャイムがなかった。
「静かにしろー!」
先生がはいってきた。
今日も、朝テストが始まる。
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渡されたテストは、「数学」。いつもは軽く満点なのに、今日はほとんど白紙で提出した。まったく集中できるわけもなく、無心でテストを受けてしまった。
(これは、後で呼び出しかなぁ…)
ため息がこぼれる。
カーン…カーン…カーン……
2回目のチャイムがなり、同時に授業が始まった。
………………………。
………。
もちろん、集中などできるわけもなく無意味にノートに図式を書きつつり、こうなってしまった理由を模索した。
そして、一つの疑問が生じた。いや、一つではないが…
(これ、戻れるのかな。)
突然不安に襲われた。
あまりにも現実味のない出来事に、逆に冷静になってたけど…もし、このままもどれなかったら…?
(悠とイチャイチャできないじゃん。)
初めによぎったのは、それだった。
………。
…………………。
4時間目が終わり、私は弁当をとりだした。いつもは美優と食べていたが、この姿ではきっとそれはなくなっているはずだ。私は悲しくなった。
(ボッチじゃん。)
そりゃ、女子からは悠と付き合ってるのをひがまれて、もともとそんなに友達が多いほうじゃなかったけども。でも…ボッチかぁ……
そう思っていたら、またしても後ろから叩かれた。
「何してんだよ、蒼!いくぞ。」
悠だった。
私は、驚きながら悠の背中を追いかけた。
階段を登ると悠は鍵のかかった屋上の扉を、ひょうひょうと開けて見せた。
(いや、まてこら。)
私のツッコミを無言で制し、悠は屋上に飛び出した。
「食べよーぜ!」
悠がはしごを登って座っていた。
私は、悠の隣に座った。
「相変わらず美味そうな弁当だな!」
悠が笑ってる。
私は、混乱していた。
(な、な、な、にこれ!!!憧れの屋上で一緒にお弁当シチュですと!!!???お、おとこ友達って、素晴らしい…!!!)
興奮を抑えきれない。
と、とりあえず食べよう…。
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食べ終わると、悠が寝転んだ。そっか、いっつもここでサボってたんだ。
悠はよく古典の授業をサボる。
「古典の時間どこにいるの?」 と私が聞いても、
「いいとこ♪」って、いつも誤魔化された。
悠の秘密を知れたみたいで、少し嬉しい。
チャイムが鳴った。
悠が眠そうに起き上がった。
「なあ、サボっちゃわね?」
悠がニヤッとしながら袖を引いた。
「う、うん!」
思わず、口が動いた。
「よし、よく言った!」
悠が私の手を引いた。
ちょっ!!
バタッ
バランスを崩した私は、悠を押し倒していた。
いつもなら、ここで首に手を回して抱きしめてくれる。私は、しばらく固まっていた。
「お、おい。蒼?」
悠が不思議そうに名前を呼んだ。
あっ、と悠から体を離した。
(そっか、いま私は男なんだ…)
「ごめん、ボーっとしてた。」
「お、おう。気にすんな!寝ようぜっ」
………。
………………。
悠がこんなに近いのに、触れられないなんて…
無邪気に眠る悠の顔を眺めた。
「やっぱり、綺麗な顔してるな〜」
思わず、声が出ていた。
「なー。照れんだけど。」
目を閉じたまま悠が呟く。
(あっ…)
「起きてたんだ。」
慌てて悠から視線を外す。
同時にチャイムが響いた。
カーン…カーン…カーン ……
「うし!戻るか。」
悠が私に手を差し出す。
「え?」
そんな間抜けな声を漏らすと
「んだよ、早く起こせし!」
拗ねたように口をとんがらせた。
私はバクバクな心臓を抑えて、悠の手を引いた。
「さーんきゅ、蒼。」
その笑顔に、やられた。
これは、心臓がやばい………!
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教室に戻るとそこには誰もいなかった。
「うわ、やっべ!次体育じゃん。」
悠が私の机にかかっていたバックを投げた。
「急ぐぞ!」
楽しそうに駆けだす悠のあとを追う。
更衣室に着くと直樹が声をかけてきた。
「お前らどこいってたんだよ〜!」
相変わらずニヤニヤした顔だ。
悠が笑う。
「うるせーよ!早く行ってろ!」
軽くあしらう悠。
「はいはい。お前らが早くしろ(笑)」
直樹は走って体育館に向かった。
「相変わらず元気なやつだな〜。」
私は心で呟いた。
(ほんとに、ね。)
直樹は幼なじみだ。実は悠と上手くいったのはあいつのおかげだったりする。そんな直樹に感謝はしてるけど……
とても、うるさい。
「着替えよーぜ!」
悠がおもむろに脱ぎ出した。
私は思わず凝視した。
(悠のハダカ…!!!!!???)
顔がニヤける。
健康的な肌の色に、鮮やかな上腕二頭筋……そして6つに割れた綺麗な腹筋……
ああ…幸せ。
………………。
………。
………………………………。
(って、変態か!)
痛々しいノリツッコミと共に着替えを終え、私たちは体育館に向かった。
私は、バスケを選択していた。きれいに書き換えられた名簿に、もう違和感は抱かなかった。
もともと悠を見てたくて選択したバスケ。
男子と女子にわかれて試合をするため、私はいつも手を抜いていた。私が本気を出したら、みんなつまらないだろうから。ほどほどに目立たない程度に…と。
いつか男子とガチりたい。
燃えきれないもどかしさが私にそう思わせていた。
意外なところで願いが叶った。
私は悠と同じビブスを着て、ゲームは悠と直樹のジャンプボールからはじまった。2人はバスケ部だ。
ボールが上がって3秒。
私はボールを見失った。
え…?
そう思ったときにはもう、直樹がゴールを決めていた。
(なにこれ、すごい…)
感情が高ぶる。
(これが、男子…)
おもしろい。
再び、ボールに集中した。
悠からパスをもらい、そのまま二人抜いた。
三人目に捕まり足が止まった時、うしろから悠が叫んだ。
「あおい!」
私は後ろを見ずに、声の方向にボールを運んだ。その瞬間ボールが弧を描く。
スリーポイント。
キャー!ゆうくーん!
すごいすごいっ
女子たちの歓声が響いた。
私も昨日まではあの中のひとりだった。
歓声のする方へ目を向けていると、突然背中に重みを感じた。
「わっ!」
思わず声がこぼれた。
悠が私の首に手を回す。
(……っ!!!!????)
声にならない叫びをあげて私は固まった。
(ちょっ、みんな見てる……)
そう思いかけて、気づいた。
(見られてもいいじゃん、これ。)
たかが男子と男子の絡み、考えれば普通だった。
それでも、胸の鼓動はとまらない。
(悠に、聞こえませんように…)
その間、何秒だっただろうか。悠は再びボールを追って走り出した。ゲーム終了までの5分間、私の目はずっと悠だけを追っていた。
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放課後、部活が始まった。
私は男になってもバレー部のキャプテンらしい。
男女合同の練習は私たちの代からはじめたことだが、なかなか素晴らしい練習だと思う。
この学校ははっきり言うと女子の方が強い。だからこそできることだ。男子の力強さや高さになれることが出来る。そして男子もインターハイレベルの女子のテクニックを直で感じられる。
改めて男子の方に混じって試合をすると、女子の粗が見えるものだ。すごくいい経験になった。私が戻ったらこのチームはもっと強くなる。その確信が芽生えた私は高揚した気持ちで部活を終えた。
「蒼!一緒に帰ろーぜ。」
悠も体育館の鍵を返しにきていたようだ。
私は迷いなく答えた。
「うん!」
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少し薄暗くなった空にうっすらと月が浮かんでいる。
触れそうで触れない手がくすぐったい。
隣に悠のぬくもりを感じながら歩く帰り道。いつもの道なのに、私は悠を見上げていない。その手は私と重なっていない。私は少し、悲しくなった。
(もし、このまま男のままだったら…)
そんなことを考える。
でも、思うことは1つだ。
もし戻れなくても、私は悠が好き。
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もし男に生まれてたらって、なんとなく考えた時があった。そのことを突然思い出した。
「私が男だったら、可愛い女の子をめっちゃ甘やかして、守ってあげれるのに。」
そんなことをとうとうと語っていた。
私は男に生まれたかった。そうすれば女子の面倒くさいしがらみもないし、毎月の痛みもない。それに本気で勝負できる。そんな日々に憧れていた。でも今は……
悠のそばにいたい。
悠に、触れたい……
女の子に、戻りたい。
「ごめんな。」
突然悠の足が止まった。
「びっくりさせて、ごめん。」
悠が頭を下げている。
私が不思議そうな顔をしていると、静かに顔を上げて再び歩き出した。
そして、ゆっくり語り出した。
「実は、お前が今日男になったのは俺のせいなんだ。本当にごめんな。」
一瞬私は言葉の意味を理解出来なかった。
悠は続ける。
「俺、昔神様を助けてさ。そのときあいつが言ったんだ。《18歳になった夏にあなたの願いを何でも一つ叶えます。》って。」
私はなぜか納得してしまった。
「でもなんで、私を男に…??」
私が聞くと悠は笑い出した。
「聞きたい?バカみたいにくだらないけど。」
悠の目がイタズラっぽくニヤけている。
私は小さく頷いた。
一息つくと、悠は言った。
「お前とサボりたかったから。」
「……はい?」
思わず声に出た。
「だーかーらー、お前が女だと二人でサボったらいろいろマズイじゃん?でもほら、お前が男だったら…って。」
私の目をチラッと見てもう一度頭を下げた。
「…ごめんなさい。」
私はわざとらしく溜め息をついた。
悠はまだ、顔を上げない。
私はゆっくり近づいて、そのまま悠の頭にキスをした。