表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend Of Blue Bird   作者: zeroY
Chapter 1  壊れ始めた日常
4/27

04 「逃走と戦闘と」

 春音たちは、迂闊に動けない状態に陥ってしまった。

 パトカーの前方からは、ゾンビが向かってきているため、いずれ窓ガラスを割られてしまう。

 しかし後方には、後から来た数台の車が並んでいるため、バックすることができない。


「……ここは自分が食い止めます! 先輩たちは早く避難所へ!!」

「門田君!!」


 運転席の輝義が突如、パトカーから降りる。

 パトカーに向かっていたゾンビは一度足を止めると、


「アァァッ……アァァァァァッ!!」

 

 という声を上げながら、今度は輝義の方に向かい始めた。 

 輝義は腰のホルスターから、拳銃(リボルバー銃 S&W M37 エアーウェイト 装弾数5発)を抜き出す。


「止まれっ!! 然もないと撃つぞ!!」


 輝義は銃口をゾンビに向け、撃鉄を起こし、拳銃を構える。

 しかしゾンビは、足を止めようとはしない。

 輝義はゾンビの頭を狙い、トリガーを絞った。

 ゾンビの襲撃によって周囲が騒がしい中で、一発の銃声が轟く。

 発砲音から間髪容れずに、ゾンビは後ろへ倒れる。

 頭から大量の血が流して倒れたゾンビは、やがてピクリとも動かなくなった。


「先輩、今のうちに!」

「門田君……頼むわ! 二人とも行くよ!」

 

 春音、唯、広子の三人はパトカーから降りると、ゾンビがいないか見回した。

 視界に移る範囲では、ゾンビの数は二、三体。こちらの存在には気づいてないようだ。

 他にもゾンビはいる筈だが、先頭車の行列が騒がしいため、おそらくそっちに集まっているのだろう。

 パトカーの後方に目を向けると、複数のゾンビに囲まれて車ごと動けなくなった人や、ゾンビの餌食となった人が続出していた。


「広子さん……あの人たちを助けることは、できないんですか?」

「……無理よ、唯ちゃん。今私たちが行けば、彼らと同じ運命を辿ることになるわ……」

「そ、そんな……」

「……辛いかもしれないけど、広子さんの言う通りだよ。今は……生き残ることを考えないと!」

「春音まで……でも、そうだよね……あっ!あの脇道!ゾンビがいないっぽいよ!!」


 唯の見つけた脇道に、人影が見られない。

 春音たちは周囲を警戒しつつ、脇道へと入っていった。




 脇道には放置車や片方だけの子供サイズの靴、血の跡などが残っていた。

 軽く見渡すだけでも、その光景が嫌でも目に飛び込んでくる。

 此処で何があったのか、口に出さずとも、想像がついた。

 懐中電灯を持った広子が先頭に立ち、その後を春音、唯、そして少し距離を置いて輝義が続く。

 

「痛っ!!」


 突然、輝義の大きな叫び声が、春音たちの背後から聞こえた。

 先頭にいた三人、は思わずその場で足を止め、振り返る。


「門田君?! どうしたの!!?」


 広子が懐中電灯で輝義を照らすと、彼の足元に人影が見えた。


「えっ? あれって……!」


 広子の視線の先で、三、四歳くらいの子供が、輝義の脛に深々と噛みついていた。

 子供は顔や服が血まみれで、性別が判断できないほど顔が歪んでいる。

 ゾンビだ。


「子供の、ゾンビ? でも、そんなの何処に……?!」


 春音の疑念は、放置車の下から続く血の跡と、片方だけの子供の靴によって払拭された。

 子供ゾンビは、車の下に潜んでいたのだ。

 

「せ、先輩……早く逃げ……あがぁっっ!!」


 追い打ちをかけるように、後ろから大人の体格をしたゾンビが輝義の首元に噛みつく。

 輝義は人間の物とは思えないような声を上げ、そのまま倒れた。


「そんな……門田君……」

「門田さんが……死んだ」


 春音と広子は思わず立ち尽くし、呆然と目の前の光景を眺めていた。 


「うっ……私、もう駄目……うおぇっ……」


 あまりの無残な光景に唯は耐え切れず、道路の側で嘔吐してしまった。

 吐瀉物としゃぶつの臭いに反応したのか、二体のゾンビが春音たちの方を一斉に向く。

 倒れていた輝義も、ゆっくりと起き上がり、春音たちの方に目を向けた。

 感染してしまったためか、瞳は白く濁りかけており、褐色の良い肌が少しずつ血色悪いものへと変わっている。

 輝義は今、ゾンビに転化しかけているのであった。

 春音の脳裏に、中継の映像が再びフラッシュバックする。


(ヤバい……このままじゃ……んっ?)


 不意に春音は、自分の足元に何かが当たったのを感じた。


「これって……!?」


 視線を向けた先にあるのは、重みのある金属製の物体。

 先ほど輝義が使用していた拳銃である。

 おそらく輝義が襲われた際、こちらに投げたのだろう。

 春音は迷わず拳銃を手に取った。

 拳銃からは、見た目以上にずっしりとくる重みが手に伝わる。

 輝義が使っていたのもあって、それが玩具おもちゃでないことを、改めて感じ取った。


(こうなったら……やるしかない!!)


 春音は銃口を子供ゾンビの方に向け、撃鉄を起こした。

 銃の反動を計算し、狙いを子供ゾンビの胸あたりに定める。


「ヴゥァァァッ……アァァァッ……」


 子供ゾンビは覚束ない足取りで、唯の方へと向かっている。 

 血潮に混じって流れる緊張と共に、春音はトリガーに指を掛け、絞った。

 直後、大きな銃声が鼓膜を揺らす。

 弾は子供ゾンビの額に命中し、大量の血を噴き出して後ろに倒れた。

 

「春音ちゃん?!!」

「広子さん、前っ!!」

「っ?!」


 広子の目の前には、彼女へゆっくりと歩み寄る輝義の姿があった。

 広子も腰のホルスターから拳銃(自動拳銃 SIG SAUER P230 装弾数8+1発)を取り出す。

 弾丸を装填すると、銃口を輝義に向けた。

 しかし、トリガーに掛けた指が、なかなか動かない。

 広子の躊躇とは裏腹に、輝義は止まることなく近づく。


「せん……ぱい……殺し……て、くだ……さい」


 病原菌によってゾンビへと変わりゆく輝義は、最後の力と理性を振り絞り、擦れた声で広子に呼びかける。

 広子は涙を堪え、


「門田君……ごめんなさい!!」


 ついに、トリガーを絞った。

 乾いた銃声は、彼の最後を告げるように響き渡り、輝義の身体は膝から崩れ落ちる。

 彼が最後に聞いた音は、小さな鈴の音のような、空薬莢の落下音であった。


「広子さん、後は任せてっ!」


 春音は残りの一体となった大人ゾンビに向けて、発砲した。

 一発目は、大人ゾンビの左肩を掠める。

 二発目で、頭部の右側を撃ち抜いた。

 ゾンビは右に回転しながら吹っ飛び、仰向けのまま、ピクリとも動かなくなった。


「ふぅ……なんとか、なった……」


 春音は銃の安全装置を作動させて、ジーパンの後ろポケットに突っ込む。


「唯、大丈夫……? 気持ち悪くない?」

「うん……なんとか……」

「二人とも、大丈夫?!」

「私は何とか。でも、唯を何処かで休ませた方が良いよ」

「ううっ……すみません、広子さん。ご迷惑をおかけします」

「気にしないで! 襲われなくて、何よりよ!」


 広子は拳銃をホルスターに仕舞うと、輝義の遺体に目を向けた。

 彼の前まで行くと、しばらく黙祷し、手を合わせる。

 春音は唯の手を引いて立たせると、広子の近くまで行き、同じく黙祷した。


「門田君は……とても良い後輩だったわ。彼のような人の先輩でいられて、私は嬉しかった」

「……行こう、広子さん。さっきの銃声で、他のゾンビが来そうだから……」

「……そうね。彼の分まで、私たちは生きなきゃ」


 広子は力なく呟くと、春音と唯と共に、その場を後にする。

 二体のゾンビと共に倒れている輝義の顔は、心なしか安堵の表情を浮かべているようにも感じ取れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ