第八話
「……」
これは、戦いと呼べるものだったのだろうか。
海人を挑発した魔王。
名前は……ザクロスだったか。
そのザクロスは、最初の海人の一振りによって、呆気なく消滅した。
海人が強すぎたのだろうか。
それとも、魔王ザクロスが弱すぎたのか。
「や、やった……?」
海人のハーレムメンバーの一人である幼なじみが、控えめに言う。
まあ、そうなるだろうな。
「う、うん。やったん、だよ」
倒した本人、海人も控えめに言う。
喜ぶシーンなのだろうけど、余り魔王を倒したという実感が湧いてこない。
「あ、そ、そうだ。皆、団長に知らせてきてくれないか? 俺は……そうだな、ユアンと、ここの調査をするよ」
「え?」
いきなり名前を呼ばれたことに、少し戸惑う。
しかし、確かに早めに団長の下へ向かった方がいいな。
それに、ここには何か罠があるかもしれないし。
「なら、団長と合流した後、先に国に戻って貰った方が良いんじゃないか? ほら、勇者様を迎えるためにさ」
魔王を倒した勇者。
それは、パレードみたいのをして迎えるのが一番良いのではないだろうか。
「た、確かにそうだね」
ハーレムメンバーの誰かが言う。
そして皆賛同したところで、凛やフィンを含めた全員が、そこを去った。
勿論、ロン殿やアリリさんもだ。
「さて、ユアン、調査をしようか」
海人がイケメンスマイルで言う。
相変わらず眩しいぜ。
「で」
そこで俺は声色を変えて言った。
「俺に何の用だ?」
「あはは。気付いてたか」
「当たり前だ」
何が調査だ。
そんなの、二人でやる行為じゃないだろうが。
「二人目、なんだよ」
ポツリと海人が呟く。
何が?
俺は海人が、何かを話すことは分かっていた。
だが、その内容までは予想できなかった。
キィィィン!!
二人しかいない部屋に、金属音が響いた。
咄嗟に剣で防いだが、力負けして後ろに吹っ飛んだ。
誰にやられた?
決まっている。
目の前にいる、勇者にだ。
「あー。防がれたかぁ」
海人は、余裕そうな表情で、聖剣を弄っている。
その目は、いつもの表情とは、まるで別人と化している。
俺は立ち上がり、剣を構えた。
「勇者カイト! 乱心か!」
「……させない」
そこに、フィンと凛が来た。
帰る振りをして、戻ってきたらしい。
何か気付いていたのか?
きっとそうなのだろう。
「……」
少し遅れて、ロン殿も来た。
アリリさんの姿はない。
どうやら一人で来たようだ。
「それだよそれ、ユアンのウザイとこ」
海人が俺を見る。
そこにあるのは嫌悪、そして殺意。
「ユアンってあいつにホント似てるよな」
「……あいつ?」
思わず聞き返した。
いつの間にか、尋常じゃないほどの手汗が出ていた。
……嫌な予感しかしない。
「瀬戸、幸次」
「「!!」」
俺と凛が同時に反応する。
なぜここで?
なぜここで俺の名前が出るんだ?
「話をしてあげるよ」
海人が、聖剣を弄りながらニヤリと笑う。
「ほら、俺ってイケメンだろ? だから小さい頃からモテてたんだ。俺は気に入った女子がいたら、話しかけた。そして笑顔とか見せたら簡単に惚れちまうんだよ。笑えるだろ?」
鈍感系主人公。
どうやら目の前の男は、違ったらしい。
「だけどね。一人だけ、惚れなかった奴がいた。……君だよ、凛」
「……」
惚れなかったって。
凛は基本無表情だ。
それなのに、何故分かるんだ。
「凛の側には必ずあいつがいた。……さっき言った、瀬戸・幸次ね。そして思ったよ。あいつがいるからだ、ってね」
どうしたらそうなる?
この男は狂っているのか?
「ならどうする? 消せば良い。だから俺はね……あいつを線路に落として、殺してやったよ」
「ッ……!!!」
何かが脳内に映し出される。
これは……あの時の……?
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その日も、俺はいつものように電車を待っていた。
いつもと変わらず、やはり朝は混んでいる。
電車通学ってホント怠い。
──そろそろか
少し顔を出し、右を見ると、もう見えていた。
段々とそれは近付き
──え?
そして自分も、近付いていた。
空中に浮いている自分。
そうなるほんの少し前、背中を誰かに押された感覚があった。
俺、殺されるの?
誰に?
身に覚えは……ないな。
身体を無理やり反転させ、その人物を見ようとする。
多くの人が驚愕を表情に表している中、一人だけ違う表情をした奴がいた。
歓喜。
恐らく、そいつが俺を押したのだろう。
見れば、同じ制服じゃないか。
やっぱり知り合いか。
でも一体誰が
──海人?
次の瞬間、俺は死んだ。
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ああ、そうか。
ショックによる軽い記憶喪失。
だけど、本能的には海人に対し、恐怖、そして嫌悪していた。
つまり、そういうことか。
「俺の邪魔をする奴は、誰だって許さない」
海人の目は、完全に俺を捕らえていた。
「当然……お前もだ。ユアン」
なんだよ。
「ははっ」
つまりはこいつ。
「はははっ」
ただの
「自己中かよ風早海人!」
笑える。
笑えるぜ。
邪魔をしたから?
ハーレムの?
そんなことのために──
「よくも俺を殺したなっ! 海人ぉぉぉ!!!」
この腹黒野郎。
ふざけやがって。
「何を馬鹿なことを言っているんだ、ユアン」
「……面白いことを教えてやるよ」
良い機会だ。
言ってやろう。
と言うより、今以上に良い機会なんてもう訪れないだろう。
だから今言う。
「俺はルニス王国騎士団副隊長、ユアン・トーレス。そして……」
驚け、海人。
「瀬戸、幸次の記憶を持つ、転生者だぁぁぁ!!」