第七話
「さあ、行こう」
魔王城城門。
そこで海人が言った。
城外の敵は既に殲滅した。
後は城内だけだ。
俺たちは騎士団長たちと別れ、中に入る。
出来るだけ早く倒そう。
ロン殿とアリリさんは凄かった。
魔王の元へ走りながらも、途中で見かけた魔物を軽く倒している。
俺たちの出番がない位だ。
だが、油断は禁物。
何が起こるか分からないからな。
途中、強力な魔族が現れる。
だが、ロン殿によってそれは一瞬にして消滅する。
そして思う。
賢者の名は、伊達じゃない。
規格外と言う言葉は、彼のような人を指すのだろう、と。
そんなロン殿が、止まった。
隣に並ぶアリリさんもだ。
目の前には、大きな扉がある。
そして豪華だ。
恐らく、この奥にいるのだろう。
敵──魔王が。
俺たちはそれぞれ、武器を握り締めた。
皆緊張している。
勿論、俺もだ。
そんな中、扉を押し、開けて中に入ったのは、勇者である海人だった。
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「来たか、人間共」
広い部屋。
その奥。
そこには玉座があり、褐色の肌を持ち、角が二つある青年が座っていた。
彼──奴が、魔王か。
その魔王の隣には、魔族が立っていた。
此方から見て右側には、全身を黒い鎧で覆った者が。
左側には、黒いローブで全身を包み、木製の杖を持っている者が。
キィィィン!!
金属音が響く。
俺は見えたが動かなかった。
彼らが引き受けてくれたから。
右。
そこにはロン殿と全身を黒い鎧で覆った者が相対していた。
どちらも手には武器がある。
敵側は魔力を纏わせた黒い剣……いや、刀。
ロン殿は魔力で創った光る剣だ。
左。
そこにはアリリさんと全身を黒いローブで覆った者が相対していた。
どちらも周囲に魔力を漂わしている。
敵側は黒い霧のようなものを放出している。
アリリさんは反対にに光るものだった。
ロン殿とアリリさん。
どちらも表情には余裕が見える。
手助けは無用、かな。
それは俺だけじゃなく、全員に伝わったようだ。
何も言わずに視線を魔王へと向ける。
海人は聖剣を右手に出現させ、魔王へとそれを向けた。
「俺は勇者、海人・風早。名を名乗れ、魔王よ」
対し魔王は、若干驚いたような表情を見せた。
そしてニヤリと笑う。
「我が名は魔王ザクロス」
ザクロスと名乗った魔王は、立ち上がる。
なんだ?
何故笑っている?
何がおかしい。
「よく来たな、勇者よ。我は嬉しいぞ」
こいつは戦闘狂か?
今の状況が嬉しい?
お前は今、追い詰められているんだぞ?
「馬鹿に、してんのか?」
海人はそれが気にくわなかったようだ。
聖剣を両手で持って構えている。
「さあ、来い、勇者よ」
「舐めるなあぁぁぁああ!!」
そして戦闘は、始まった。
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ロン・グリンベルクは相対していた。
「名を、訊こうかの?」
余裕を持った表情で訊く。
が、油断しているわけではない。
「我、ジューガ」
ダミ声で、ジューガは応える。
ロンに余裕があるのに対し、ジューガにはない。
理由は簡単だ。
決定的な実力差。
最初に剣を交えた時、理解した。
ロンに勝つこと等、到底出来ないと。
それほど、実力が離れていたのだ。
だこらと言って、逃げるわけにはいかない。
せめて相打ちにでも。
ジューガはそう考えていた。
勝つことが出来ないなら、引き分けにすれば良い。
「……」
ジューガは自分の武器を握り締めた。
それは刀と呼ばれるもので、この世界では珍しいものだった。
「念の為、儂は早くアリリの奴のとこに行きたいんだがのう?」
その言葉が言い終わるのとほぼ同時、ジューガの左手が鎧ごと切り裂かれていた。
一瞬にして近付いたロンが行ったのだ。
本当なら、身体を真っ二つにされていた。
しかし、ジューガがギリギリ身体を動かしたのだ。
──早い
ジューガがそう感じたその瞬間、彼の頭は飛んでいた。
これも当然、ロンがやったのだ。
しかし。
直後、首のないジューガの右手が動き、ロンに斬りかかった。
それは予め唱えておいた体を覆っている守護壁によって防がれたが。
「……」
ロンは一旦距離を取った。
そうしている内に、切り裂かれていた筈の頭と左手が元に戻っていった。
ロンは見た。
鎧の中身を。
簡単に言うと、中身は空だった。
正確には、大量の魔力があったのだが。
「ふむふむ。そういうことじゃな」
ロンは独り言を言っていた。
その様子をジューガは警戒しながら見ていた。
──やれなかった。
今のが、一番のチャンスだっただろう。
がしかし、あの守護壁は固かった。
全力でいかなきゃ、斬れないだろう。
「──尊君に願う」
ロンは詠唱を始めた。
慌ててジューガは阻止にかかる。
これほどの者が、詠唱する必要がある魔法。
ジューガは、考えただけでもゾッとした。
「──燦爛により、暗影を滅せよ」
刀を振るう。
しかし最低限の移動で避けられる。
「──晦冥の地に、瑞光を与えよ」
空いている左手で手刀を作り、避けたところに振り下ろす。
が、それも当たらない。
「──我が願いに応えよ」
一か八かで右手にある刀を投げる。
が、それが届くことはなかった。
「《清光》」
刹那の光が現れる。
その後、ジューガの姿はなかった。
ロンはその時、気付かなかった。
その魔法が、アリリの方にも影響していることを。
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「……」
アリリは呆然としていた。
敵が放つ魔法に合わせ、自らも相殺する程度の魔法を放ち、様子を伺っていた。
するとどうだ。
少し遠くで輝いたと思うと、敵が弱まり、本来相殺する筈の魔法が敵に当たり、消滅させたのだ。
勝った気がしない。
それが、アリリが最初に思ったことだった。
「……ハッ!」
今はそんな場合じゃなかった。
それを思い出し、魔王がいる方角を見た。
「……」
そしてまた、呆然することとなった。
既に魔王は、海人によって倒されていたのだ。