第六話
「……」
船上。
俺たちは今、魔大陸に向かっていた。
あの後アリリさん(殿や敬語は断られた)に気絶した理由を訊いたが、はぐらかされた。
ロン殿が何か知っていた様子だったけれど、何も教えてくれなかった。
魔大陸へは、アリリさんも同行することとなった。
ロン殿が認めている位だから、強いんだけども。
俺やフィンは危険だからと止めようとしたが、話を他のメンバーにしてみたところ、受けられていたみたいなので結局同行することとなった。
魔大陸へ行くメンバー。
最終的に、
勇者の海人
彼のハーレムメンバーである
剣術に特化している幼なじみ
見かけによらず太刀を使いこなす巨乳の日本人
弓を扱うエルフ
治癒魔法を扱う元奴隷
スピードを誇る傭兵
魔族特有の魔術を使えるサキュバス
統率力が高い騎士団長
彼が選んだ有能な騎士団員たち
魔法関係に特化し剣術も人並み以上に出来る凛
剣術のみなら誰よりも強いフィン
聖魔法を扱うロン殿
自称彼の弟子のアリリさん
そして、俺。
その中でも役割はある。
騎士団長と彼が選んだ騎士団員たちは、魔王城潜入後、敵を入らせないようにする。
ロン殿とアリリさんは、案内役もする。
魔族から漏れる、邪悪な気配的なものを感じることが出来るらしいのだ。
それで、魔王の居場所が分かる……筈らしい。
特にアリリさんはそれに敏感らしい。
そして魔王戦。
「……」
甲板で、遠くを見ながら俺はその内容よりも、その後のことを考えていた。
俺は日本に帰る方法を知っている。
それを教えて帰らせた方がいいのだろうか。
ルニス王国のことを考えると、残って欲しいのが本音だ。
その方が全然安全だからだ。
魔王を倒した勇者がいる国。
そんの国に攻めてくる国はないだろう。
だが……。
「……」
すっと誰かが隣に来た。
誰かと思うと、灰色のローブを着た凛だった。
彼女はいつもの如く無表情に俺が見つめていた遠ざかっていくルニス王国を見ていた。
「なあ、凛」
気付いたら、話しかけていた。
凛は特に反応を見せない。
「凛は……故郷に帰りたいか?」
「別に」
「なっ!!」
驚いて凛を見るが、彼女はルニス王国を見ているままだ。
「なん、でだ?」
「別に」
表情を変えずに言う凛。
俺は彼女が何を考えているのか、分からなかった。
俺は転生したと分かった時、何度も家族、そして凛を合わせたクラスメートと会いたいと思っていた。
だが俺は、諦めた。
理由は、俺が生きたままここに来たのではなく、死んでここに来たからだ。
凛はそうじゃないのに……なんで?
「故郷に、未練がないわけじゃ、ない」
ルニス王国を見ながら、凛は言う。
「ならなんで」
「この世界が……好き、だから」
「ッ……!」
──嬉しい
俺はそう思った。
俺も同じなのだ。
この世界が、俺は、日本よりも好きなのだ。
別に日本が嫌なわけではない。
けれど、ここの方が好きなのだ。
「それに」
凛は俺を見た。
いつもと変わらない表情だが、なんとなく、いつもより柔らかい気がする。
「向こうには……」
凛の表情が、一瞬変わる。
そしてその感情が現れる。
明らかにそれは──悲しさだった。
しかしそれはすぐに消える。
「なんでも、ない」
俺は、何も言えなかった。
何を言えば良いのか、分からなかった。
ただ、思う。
──もしかして凛は
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俺は、何故転生したのだろうか。
それは何回も思った疑問だった。
神様の手違い?
ならその神様よ、顔を見せてくれよ。
運命?
そんな言葉で済ませられたら困る。
いつからだろうか。
その疑問は考えなくなった。
いや、考えないようにしていた。
だが……。
海人が、俺の元クラスメートが、召喚された。
再び俺は考えることとなった。
俺が転生した理由を。
「ユアン、どうした」
そんなことを考えてると、部屋にフィンが入ってきた。
まだ魔大陸には着かないだろう。
「別に、何でもない」
「……そうか」
恐らくフィンは、何か気付いているだろう。
だが何も訊いてこない。
昔からそうだ。
俺が話そうとしない限り、絶対に問い詰めようとはしない。
ただ一回、尋ねるだけだ。
「……」
フィンは黙って俺の前のベッドに座った。
この部屋にはベッドが二つあり、現在、俺とフィンがそれぞれ座っている。
「なあ、ユアン」
フィンがベッドの上に寝転がり、呟いた。
「カイトたちと一緒に召喚された、今はいない男を覚えてるか?」
「……ああ」
何故、今その話題を出したのだろうか。
「あいつ、元の世界に帰ったらしいけど……ユアン、お前の仕業だろう?」
「ッ……!」
何故それが?
それに知ってたのなら何故今更?
「それだけじゃない。カイトが助けた奴隷……あの後奴隷商に行って謝罪と奴隷の料金を自腹で払って事件にさせなかったのも。……そうだろう?」
「……」
「エルフ救出の賊の件だってそうだ。賊の頭を殺したわけでもないのに、逆襲が来なかった。ユアンが何かやったのだろう?」
「……」
「隣国の姫の救出も、場所を割り出したのはお前だった」
「……」
「魔族討伐。奇襲を狙っていた魔族を殺したのも」
「……」
「勇者暗殺。実際にカイトまでたどり着いたのは一回。だが、他の奴らは……」
フィンは上半身を起こして、俺を見る。
「全部ユアンがやったのだろう?」
思わずフィンから視線を逸らす。
「お前はなんでそうなんだ。私は悲しい。何も言ってくれなかったことが」
なんだろうな。
顔がにやけてしまう。
俺は──
「私を、私たちをもっと頼ってくれ」
この世界に来れて、
転生して、良かった。