第五話
勇者召喚から、三ヶ月が経った。
その間、色々な事が起きた。
簡単に言うと……海人のハーレムメンバーが増えた、ってところか。
まあ他にも色々あったけど。
海人が奴隷の少女を助けたり。
海人が国に攻めてきた魔族を倒したり。
海人がサキュバスのお姉さんに気に入られたり。
海人が賊に捕まっていたエルフの少女を助けたり。
フィンが凛に勝負を挑んだり。
海人が聖剣の使い方を理解したり。
海人が暗殺者を返り討ちにしたり。
海人が独自の魔法を編み出したり。
海人が他国のお姫様を助けたり。
凛がフィンに勝負を挑んだり。
海人が女傭兵を雇ったり。
……殆ど海人のことだな。
因みにフィンと凛の勝負、二戦共フィンが勝っている。
まあ、当たり前の結果だな。
さて、俺たちが今向かっているのは、魔王がいる魔大陸に一番近い港だ。
そこに、協力を要請したい人物がいるのだ。
三ヶ月。
この期間で、ルニス王国に潜入していた魔族は全て倒した。
よってこれから、攻めに転じるのだ。
だから、聖魔法が使える実力者が仲間に欲しかったのだ。
その方が、戦闘は数段楽になる。
その人物とは、『賢者』ロン・グリンベルク。
今はもう年寄りらしいが。
そんなロン氏に会いに向かうのは、俺、海人、姫様以外の海人のハーレムメンバー、騎士団長、凛、フィンだ。
フィンと凛が海人のハーレムメンバーになるかは不明なため、俺の認識の中では入れていない。
本人の気持ちが分からないからな。
「すみません」
海人がとある家の前で言った。
そこに賢者と呼ばれる存在がいる筈なのだが、そこはどう見ても普通の一軒家だった。
こんな所に本当に賢者がいるのか?
「どうぞー」
中から声がした。
女性……いや、少女の声だ。
賢者の娘、若しくは孫だろうか。
それとも家を間違えたとか……。
「失礼します」
海人を先頭にして入っていく。
……こんなに大勢で入るのは迷惑ではないだろうか。
「アナタ達が……ですか」
俺たちを迎えたのは、同い年位の金髪の少女だった。
彼女は灰色のローブを着ているから、魔法を専門的に使うのだろう。
短髪の彼女は、所謂ボーイッシュな容姿をしていた。
ま、フィンには男らしさは負けるけどな。
「……」
なんかフィンが睨んできた。
読心術でも使えるのか?
それはさておき。
賢者殿には、事前に俺たちが来ることを知らせてある。
彼女の言葉的に、やはり賢者殿はここにいると見て間違いないらしい。
玄関が狭いので、中に入ったのは五人だけだ。
海人、幼なじみ、俺、フィン、騎士団長だ。
「賢者殿はおられるのですか?」
騎士団長が訊く。
金髪の少女は、俺たちを見、暫く考え「こちらです」と言って中に案内した。
他のメンバーは、人数が人数のため、外で待っていてもらうこととなった。
俺たちが通されたのは、少し広い部屋だった。
魔石やら、魔法陣やらがあり、他に日常用品が余りないところを見ると、ここで魔法関係のことをやっているのだろう。
その部屋には、一人、床に座って魔法陣と睨めっこしている老人がいた。
金髪の少女と同じ、灰色のローブを着ている。
恐らく彼が賢者殿だろう。
「ロン様、勇者様が来られましたよ?」
「ん? そうか」
老人は、少女に言われて漸く俺たちに気が付いた。
それにしても、『様』か。
彼の髪が金色ではなく銀色(いや、白髪か?)なところを見ると、血は繋がっていなさそうだ。
なら弟子か何かか息子か孫の嫁ってところだろう。
服装からしてメイド関係ではないだろう。
「まあ座りなされ」
賢者殿は優しく言った。
俺たちは並んで座り、金髪の少女も賢者殿の隣に座った。
「儂の名は、ロン・グリンベルク。……賢者なんて呼ばれておる」
やはり老人は、賢者殿だったようだ。
それにしても優しい目をしている。
次に口を開いたのは、賢者殿の隣にいる、金髪の少女だった。
「私は、ロン様の唯一無二の弟子「自称だがの」……ぐっ。……わ、私の名前は、アリリ・ワレーンス……です」
自称弟子か。
だがここにいるってことは、賢者殿……ロン殿も認めてはいるのだろう。
「勇者殿は……お主、でいいんじゃな?」
そう言ってロン殿は海人を見た。
やっぱり賢者殿となると、分かるのか。
尊敬するな。
弟子のアリリ殿は驚いていたから、分からなかったのだろうけど。
「は、はい。俺は海人・風早。勇者です」
海人はイケメンスマイルで右手を出し、ロン殿と握手した。
流石イケメンは何やってもカッコいいな。
続いてアリリ殿の方を見て、同じくイケメンスマイルをして右手を出した。
のだが。
「……」
「……」
「……」
「……」
アリリ殿、無反応。
ってよく見たら。
「気絶、してる」
それは誰が言ったのだろうか。
あ、俺か。
って……え?
「……すまぬが勇者殿、少し席を外して貰っても?」
「え? ……あ、で、でも」
「あ、魔王の話なら……そうじゃな、そこの二人とでも話しておく」
そこの二人。
それは俺とフィンだった。
「賢者殿、それは……何故?」
騎士団長が慌てたように訊く。
膝立ちの状態になってるから、結構焦っている様子だ。
そりゃそうだよな。
俺も内心結構焦っている。
何かマズいことをやってしまったのだろうか、と。
「心配はいらぬ。協力はするつもりじゃよ」
その言葉に、ほっとしたのか、座り直す騎士団長。
でも……協力『は』ねえ?
何か引っかかるな。
でも、協力してくれるんだし、いっか。
その後、俺とフィン以外のメンバーが家から出て行った。
その間アリリ殿は、終始気絶していた。
座ったまま、だ。
「えっと……ロン殿、アリリ殿は……?」
海人たちが出て行った後、俺は問いた。
「まあ、その内戻るじゃろ」
「は、はぁ」
ほっとくんだ。
正直、座ったまま動かないアリリ殿は結構怖いんだけどな。
「ところで、まだ名を聞いてなかったのぅ?」
「し、失礼しました。……私は、ルニス王国騎士団副団長ユアン・トーレスです」
「わ、私は、ルニス王国騎士団所属の、フィン・ミーティアです」
「そんな畏まらなくてもいいのにのう」
その間もずっと気絶しているアリリ殿。
そのアリリ殿が復活するまで、暫く三人で雑談をすることとなった。
結局、アリリ殿が目を覚ましたのは、一時間程経った頃で。