最終話
「……ん? ここは……?」
違和感を感じ、俺は目が覚めた。
違和感の正体は、直ぐに分かる。
自分のいる場所だ。
「明晰夢……って奴か?」
そこは光に包まれた世界だった。
どの方向を見ても、同じ白い風景。
ははっ。
ファンタジーだな。
「いきなり呼び出して、ごめんね?」
どこからともなく、声が聞こえた。
中性的なもので、それだけじゃ、性別は分からない。
でもどちらかと言うと、男っぽいな。
いや、男の子、って言った方が近いな。
「あれ、驚かないの?」
別に想定内だ。
……予想より随分遅いけどな。
「そうなんだ」
……心読めるのかよ。
「まあ、神だからね」
やっぱり、そうか。
今まで起きたことは、夢じゃないよな?
「勿論だよ。魔王ザクロスは死に、君達は無事に国へ帰り、パーティーをした」
それで確か、酒を飲んで……ああ、それから記憶がない。
起きたら二日酔いになってそうだ。
「ふふ」
笑うな。
「それにしても、君には感謝しても仕切れないよ」
……海人のことか?
「そうだよ。勿論、魔王のこともね」
勇者召喚。
ありゃお前の手違いか?
「僕はそこまで魔法に干渉出来ないよ」
なら俺の転生は?
「僕がやった」
……大体読めてきた。
お前は元から、海人の腹黒さを知っていた。
そしてそんな海人が勇者として召喚されることも。
「そうだよ。だから焦ったよ。この世界とあの世界……地球の神としてね」
そこでお前は俺を転生させた。
「その通り」
だけどそれなら何でチートみたいな能力を俺に付けなかったんだ?
「君は知らないと思うけど、僕は君……いや、君の精神と少し話をしたんだよ」
俺の、精神?
「そう。それで、どんな能力が欲しい? って訊いたら、いらない、って言われちゃってさ」
確かに、言いそうだな。
ん?
そう言えば、俺が死んだ時の記憶がなかったのは、お前が何かやったのか?
「いいや、違うよ。って言うより、本当は覚えていて欲しかったんだよね。そしたらしっかりと対処出来てただろうにね」
だが俺は、ショックで軽い記憶喪失を起こしていた。
「うん」
なら、今みたいに夢に出てきて教えるなりアドバイスするなりすれば良かったんじゃないのか?
「そこまで僕は万能じゃない。只でさえ、あの時期は魔の存在が大きかったんだ」
ふーん。
神も大変なんだな。
「君も、でしょ?」
まあ、な。
俺は王様に、全てのことを話した。
海人のこと。
俺のこと。
転生を含めた全部だ。
結果、対処はこうなった。
『勇者海人は魔王ザクロスと相打ちになった』
それはとても有り難い対処だった。
勇者だと他国に知られたら、外交とかで色々忙しくなりそうだからな。
俺はただ、騎士団員として働いていたいんだ。
大変なのはそこじゃない。
……海人のハーレムメンバーだ。
多くの者が嘘だと言った。
だがそれは紛れもない真実だ。
結果、立ち直れそうにない者が数人出た。
王女様。
そして海人の幼なじみだ。
他のメンバーは人それぞれだ。
エルフは里に帰る。
元奴隷は城でメイドとして働く。
傭兵は勿論元の場所へ。
サキュバスは既に行方を眩ましている。
日本人の巨乳の子は俺の魔法で日本へ。
既に動いたのはサキュバスだけだが、パーティーが終わって数日後……つまりもうすぐ、移動を始めるだろう。
「……はあ」
王女様と幼なじみ。
どうすればいいのだろうか。
「ほっとけば?」
何言ってんだよ。
「時間が解決してくれるよ」
そんな無責任な。
「でも君が責任を感じなくても良いんだよ?」
だが……
「それよりも」
ん?
なんか嫌な予感が……
「フィン・ミーティアと凛・西華。……今のところ、どっちに傾いてるの?」
「ぶはっ!」
いきなり何を言うんだ。
「ふふ。で、どうなの?」
魔王討伐の帰り。
俺は二人に告白された。
先に告白してきたのは、凛だった。
正直、驚きすぎて死ぬかと思った。
そもそも、凛は瀬戸幸次が好きだったらしい。
そして凛は俺が瀬戸幸次の生まれ変わりと最初から何となく気付いていたらしい。
その原因となったのが、クール君に成りすました手紙だ。
確かに、あの時凛見てたな。
まあそれは置いといて。
俺は、ならユアンとしての俺は好きじゃないのでは、と思った。
「あはは。バカみたい」
うぐっ。
そしてそれは違った。
だから大人しく、告白に応えた。
申し訳ないが、断った。
「うわっ」
理由はちゃんとある。
まず、俺は凛に恋愛感情を持っていない。
と言うか、俺は恋愛感情と言うものが、どういうものなのか知らない。
一度も恋をしたことがないからな。
かと言って、異性として見ていないわけではない。
と言うよりあんな可愛い女性を異性として見ない人がこの世にいるのだろうか。
だが俺は、試しに、とか、告白されたから、とかそんな理由で交際したくはないのだ。
続いて告白してきたフィンも同様だ。
まず、フィンが俺に告白してきたこと自体に驚いて、本当に心臓が止まるかと思った。
そんなフィンの告白も、俺は丁寧に断った。
当然、異性として見ていないわけではないのだ。
「でも精神年齢34歳のおっさんが17歳の少女を異性として見てるのもどうかと思うけどね」
ッ……!
と、とにかく俺は二人の告白を断った。
恋愛感情を持っていないのに付き合うなんて失礼だからな。
「ヘタレがする言い訳みたいだね」
ぐはっ。
そ、そこで俺は考えた。
恋をする努力をしよう、と。
「ここに努力バカがいるよ」
そ、そして俺が誰かを好きになったとき、その人に告白する。
それはフィンかもしれないし、凛かもしれない。
そして、違う誰かかもしれない。
だけど関係ない。
受け入れられればそれでよし。
断られれば好かれる努力をする。
「まるでストーカーだね」
む、無理だと悟れば諦める。
「悟ることが出来たらね」
そ、そう出来るよう努力する。
「どんな努力だろう。それはそれで気になるな」
……って。
さっきからなんなんだ。
あれか?
あれなのか?
お前も海人同様腹黒なのか?
消滅させてやろうか?
「あはは。ごめんごめん。段々楽しくなってきちゃってさ」
楽しくって。
「とにかく」
ん?
「これで君とはお別れだよ」
いきなりなんだ?
時間が迫ってるとかか?
「そんな感じだね」
そうか。
「じゃ、この世界を頼むね」
いきなりぶっ飛んだことを頼むな。
世界規模って。
「君なら出来るでしょ?」
どうだかな。
「謙遜しないで」
ま、出来る限りのことはする。
一番優先するのはルニス王国だけどな。
「ふふ。それで良いよ」
上から目線だな。
「これでも神だからね」
そうだったな。
「酷いなー」
お前に言われたくない。
「おっと、そろそろ時間だ」
……わざとらしいな。
すると視界が歪み始めた。
本当に時間なのか、それともただの自作自演なのか。
「ふふ」
神の笑い声も、少し遠く感じた。
どうやら本当にお別れのようだ。
「ユアン君」
初めて名前で呼ばれたな。
「もう一度言うね」
……
「世界を、頼んだよ」
勿論だ。
「流石、勇者だ」
そして俺は意識を失った。
ああ、起きたら二日酔いか。
やだな。
これにて完結です
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