第十話
「何故……お前が聖剣を」
ザクロスが驚いた様子で此方を見てくる。
俺も知らん。
何で聖剣が。
でもなんか……。
しっくりくる。
俺は右手に持っていた普通の剣を鞘に収めた。
そして残った聖剣を、両手で強く握り締めた。
「まあ、関係ない」
それには同意だな。
聖剣とか、勇者とか、どうでもいい。
とにかく、最終的に敵を倒せば、それでいいんだ。
「ッ……!!」
先に攻撃して来たのは、ザクロスだった。
どこから出現させたのか分からないが、右手に剣を持っていた。
俺は聖剣でそれを受け、少し下がる。
とほぼ同時にロン殿は左から、フィンは右からザクロスに切りかかった。
それはザクロスが後ろに下がることで避けられるが、そこには凛が放った火の魔法《火球》が待っていた。
「ちっ……!」
舌打ちしつつもザクロスはそれを自分の剣で切った。
簡単にやったが、魔法を剣で切るのは、そう易々と出来るものではない。
しかも、通常より魔力が濃い凛の魔法だと、それは更に難しくなる。
なのにザクロスは……。
流石魔王、か。
俺は聖剣を上に掲げ、叫ぶ。
「この世界に光あれ!《光焔》!」
すると聖剣から光が現れ真上に上がり……
ザクロスの下に高速で落ちた。
事前に知っていたわけではない。
だが、何となくこうすれば攻撃が出来る……と感じたのだ。
さて、ザクロスだが。
「くそっ……」
どうやら完全に防ぎきれなかったようだ。
左手の腕より先がなくなっている。
……まだだ。
「この世界に平和を! 《瑞光》!」
今度は複数の光が現れ、同じようにザクロスに向かって落ちていった。
巻き込まれる可能性があるため、フィンとロン殿は一旦下がっている。
「ッ……!」
命中。
光は完全にザクロスの身体を貫いた。
「なっ!」
それを言ったのは誰だろうか。
ザクロス?
いや違った。
俺の隣に立っていたフィンだ。
声に出して驚きたくもなる。
なんせザクロスは……
破裂して消えたのだから。
だが分かる。
まだ消滅していない。
どこかに隠れている。
「くそっ」
どこだ?
どこにいる?
ちらりとロン殿を見る。
やはりまだ消滅していないのは分かっているようで、辺りを見回している。
他の二人も見るが、どうやら俺たちの行動で察したようだった。
「……のう、ユアン殿」
ロン殿が警戒しつつも、口を開いた。
「儂の魔力がちと足りん。余裕があれば、魔力回復薬を飲めるんじゃが……」
見ると、ロン殿の持っている魔力で出来た剣が、最初に比べて少し光を失っていた。
余裕、か。
せめてザクロスが姿を現せてくれたなら、どうにかして作れるんだが……。
今の状況だと、キツいな。
「……!」
そうか、ザクロスはそれを狙っているのか。
一番戦力の高いロン殿の魔力を消費させ、戦えなくなったところで攻撃。
そんなところか。
なら、やることは一つだ。
俺は聖剣を両手で強く握り締め、胸の前に持ってくる。
そして詠唱する。
「世の混乱の源よ、姿を現せ! 《一閃》!」
瞬間、部屋は光で包まれた。
それはほんの一瞬だったが、とても暖かく感じた。
「ぐっ……」
どこからか、ザクロスの苦い声が聞こえた。
捜すと、玉座の側に立っていた。
あんなとこに、いたのか。
ザクロスは心臓の部分を抑えて苦しんでいた。
あの光、闇で創られた魔王には、到底耐えられるものではないだろう。
「さて」
これで、終わらせて貰う。
「──聖なる者に、希望を」
聖剣を持ち直し、構える。
「──邪悪なる者に、鉄槌を」
ザクロス──魔王がいる玉座に向け、駆ける。
「──我は平和を求め」
ザクロスは苦しみながらも、右手に魔力で剣を作り出した。
「──混乱を防ぐ」
しかしその剣は、先に駆けていたフィンにより、弾かれる。
それは宙を舞った。
「──聖なる最高位者にして」
ならばと魔法を俺に向かって放つザクロス。
「──この世の創世者」
しかしそれは、高速で放たれた凛の魔法により相殺される。
「──神よ」
悔しそうにそれならばとその場から離れようとするザクロス。
「──我は今」
しかしそれも、残り全ての魔力を使ったと思われるロン殿によって防がれた。
「──混沌の源、魔王を」
ザクロスと目が合う。
「──消滅させん!」
これで終わりだ。
「《勇敢なる者の一振り》!!」
そして今──
──魔王が、倒された。




