表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/100

〇九九

 少女と男が話している。少女は長い髪を茶色に染めており、男は黒スーツに身を包んで、黒いサングラスをかけている。彼は標的のボディーガードだ。

 今回の任務内容は、標的の写真を撮るというものだ。標的は「表」では世界トップクラスの大富豪で、滅多に屋敷から出ない老人だ。その老人が今日、孫の誕生日プレゼントを直に選ぶために、屋敷を出るのだ。

 私のパートナーは、清楚なお嬢様風に薄水色のワンピースを着こなしている。胸元には煌びやかな宝石のネックレス。

 なぜその老人の写真が必要なのかは分からない。私の勝手な憶測では、彼のセキュリティをかいくぐって写真を撮ったことを本人に伝え、こちらの実力を見せしめ、老人を資金源の一つとするのだ。勝手な憶測だが。

 ボディーガードは一人だ。何人も護衛がついているものだと思っていたが、それだと逆に目立ってしまうからなのだろう。ボディーガードは、私のパートナーに話しかけられ、律儀に対応をしている。

 ここは大手百貨店の地下駐車場だ。今日は臨時に休業日ということになっている。大富豪がそう指図したからだ。

 従業員も、おそらく少数しかいない。そんな厳戒態勢の中、迷い込んでしまった令嬢。

 老人は、黒い車から出てこようとはしない。アクシデントがあったから当然だ。ワンピースの令嬢をどうにかしない限りは、出てこないだろう。

 ボディーガードは無表情に徹している。それに対して、令嬢は微笑み顔だ。

 今回の私は、ただ彼女に失態があったときのための予備であって、私に仕事はない。

 令嬢は、やっとここがどこだか分かったという風に、一層笑顔を強めた。ボディーガードが指差す出口を、にこやかな表情で眺める。出口へ向かって歩く。

 そして。ふいに途中で立ち止まり、思い出したように振り替える。

 完璧だ。プラン通りにことは進んでいる。さすがは私のパートナーだ。

 彼女は礼をする。感謝の印だ。

 礼をしたことで、ネックレスの宝石に隠しこまれている小型カメラが、角度を変え車内を捉えた。カメラが捉える映像は、瞬時に組織に送られる。

「はぁー疲れたー」

「おつかれなさいませ、お嬢様」

「なによ、それ」

 彼女がおかしそうに笑う。清楚なワンピースも相まって、彼女の小顔がとても可愛らしく照っていた。

 帰りの電車の中での会話。座席に腰掛けて、私と彼女は手を繋いでいた。

「あ、そうだ。こないだの宿題なんだけど、貸してくれる?」

「またかよ。もう受験生なんだからいい加減自分でしろよな」

「いやほら、ぼくはお嬢様なんだし」

 胸元のネックレスを見せ付ける。いや、それはどうせ組織に返すのだから、お嬢様の証にはならないのだが。

 窓の景色は移り変わる。この前新しく買った腕時計が、私たちの声で掻き消されながらも、時間を刻んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ