〇九八
茶髪の彼女が、私の腕に手を添える。
「明後日は、黒髪の子と、着物の女と、ニルの一斉葬儀があるから喪服を用意しておきなよ」
陽気に男が言う。
「なにを言っているんだ……葬儀?」
「ああ、葬儀だ。組織の仲間が死んだんだ、弔うのは当然のことだろう?」
葬儀? 仲間? 弔う?
「私は、彼女を連れ出しに来たんだ」
確かめるように、そう呟く。
少し強めに彼女の腕を掴んだ。
「私が談判しに行かなくとも、組織は元から死者の責任を負ってくれるつもりだったよ。死者だけでなく、もちろん、生者の被害への償いもね。……組織の器は、皆が考えているよりもずっと、とてつもなく大きかったんだ」
くずした言い方で、男は言う。家屋での堅苦しい言い方はどこへ行ったのか。
彼が求めていた、ニルの賠償とやらは、求めるまでもなく用意されていたようだ。ニルだけでなく、黒髪の少女や、敵である着物の女にまで。
それは、子供に対する父母のように鷹揚な――寛大な待遇だ。
「裏」を牛耳る組織は、思っていたよりも人情深いというのか。
人の「表」に見えるのが表情であるのなら、「裏」である組織は、人でいう感情だとでものか。
それが本当だとしても。
それが真実であったとしても。
私は、彼女を。
「もちろん君も、その葬儀に参席するんだよ」
男が、私の横の少女にそう話しかけた。驚いた顔をして、それからにこやかになる。
「でも私は……彼女を救うと、助けると決めたんだ」
それを耳にすると彼女は、笑みを漏らして私に言った。はっきりとした声色で。
「救うんじゃなくて、助けるんじゃなくて――ぼくを守ってよ」
「守る……」
私がその意味を考えあぐねていると、彼女は、少しだけ照れくさそうに、されどはっきりと付け加えた。
「ぼくが人生を後悔しないように、組織のパートナーとして、ぼくをずっと守ってよ」