〇九七
彼女は私が救う。助ける。そう決めたのだ。それを蔑ろにしてもらいたくない。蔑ろにしたくない。
「分からないのか! ここにいちゃあダメなんだよ。絶対に、不幸になるんだよ。『裏』の事実は、『表』での嘘は身体を蝕むんだよ」
「……それでいいんだよ、それで」
彼女が、伸ばしていた足の裏を地につけて、立ち上がる。私の首元あたりまである身長は、総じて私を見上げていた。
白い部屋の中。
まるで精神病棟。
病的にまで白い。
そんな中で、彼女の茶髪が自己を顕示していた。
ああそうか。可愛いんだ。
その茶髪が、その小顔が、その上目遣いが。
その声が。
可愛いんだ。
ふいに空気が空間を抜け出ていくような音がした。音の鳴ったほうを向く。
白い壁が横にスライドした。それは壁ではなく、ドアだったのだ。
外から、白衣を着た人間が、続々と入ってくる。
みんな知らない顔――いや。
一人だけ、知り合いがいた。
ついさっきまで、私と共謀を犯していた人間。
男。
眼鏡をかけていた。
彼女のほうを向くと、茶髪のボブカットを揺らしながら、驚いた顔をしている。
「……計画は、成功だ」
眼鏡をかけた男が――私と手を組んだ男が言う。
「成功?」
白衣を着た人々はにこやかに。ある者は手を叩き、ある者は出た腹をさする。
「全く、組織は鷹揚だ」
「鷹揚……?」
「おや。高校生は鷹揚という言葉を知らないかな。この前は、畢竟という言葉も使ったのだがね」
そう彼は笑う。