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〇九一

「お前はまるで、『裏』が地獄であるように言っているな。だがそれは間違いだ。それだと『表』が天国という扱いになってしまう。言っておくが、『表』も『裏』も現実の世界だ。それぞれがそれぞれで事実だ。事実であって虚構だ。虚構世界だ。『表』は『裏』を知らず、『裏』は『表』を観測できない。互いに支えあうこともできないくせに、『表』と『裏』という二極的な、なくてはならない存在と化している。N極があればS極があるように、陽があるなら陰があるように、男がいるなら女がいるように、『表』があるなら『裏』があるという対極になってしまっている。だが難しいことはない。N極同士でもS極同士でも磁力を持つことに変わりはない。ゆえに『表』はその存在だけで機能でき、『裏』は『表』がなくとも作用できる。『情報体』の発見により心の計量ができるようになったが、できたところで操作することはできない。それと同じだ。『表』の者が『裏』を知ってしまったからといって、『表』と『裏』を自身でどうこうすることはできない。全て現実に身を任せるしかないのだ。お前も、少女も、ニルも私も、紙に穴が開いてしまった時点で『裏』に作用されることになり、『表』を諦めるしかなくなっているのだ。……意味が分からないというような顔をしているな。だがこれが事実だ。真実だ。虚構であり真実だ。『裏』は地獄でも天国でもない。ただの事実なのだ。事象だ。世界だ。どうにもならない。どうすることもできない。あの少女は、『裏』にいるしかないのだ。紙に穴が開いてしまった。直すのは不可能だ。そして組織は――組織が謳歌するように――人を殺しはしない。人生を取り上げることはしない。無論、人体実験遂行部などの例外はあるが、基本的に人を殺さない。紙を取り替えることはしない。だからだ。だから、『裏』に迷い込んでしまった人間に、組織は慈悲をかける。慈悲とは言いがたいが慈悲をかける。無賃飲食を犯した客らしからぬ者に対する、店の反応に例えることもできる。警察に明け渡してしまうのが、組織でいう殺してしまうことだ。そして被害を被った分働かせてやるのが、組織でいうところの『裏』に引き寄せる、まあ要は働かせるということだ。慈悲だ。慈悲のようには全く見えないが、慈悲だ。少女は慈悲をかけられたのだ。組織の慈悲を。だから案じることはない。お前と同じように、これからは『裏』の人間として生きていくだけだ。なんだかんだ、お前もそうなる前は、『裏』の生活も楽しんでいただろう。あくまで憶測だが。――お前が自らを『私』と称するのも、そんなつま先立ちの、事実を知る優越感によるものではないのか。自分は他よりも事実を知っている、それが『私』を形成していたのではないのか。……そうでないと、高校二年生の男子が『私』を使うのは、どうも違和感が過ぎる。成長過程の、ただの大人ぶった少年だ。だが、年齢としてはそれも幾分おかしいだろう。そんなものは中学二年生のうちに終わらせているはずだ。個人差はあれど、お前はそうだ。畢竟(ひっきょう)、お前はなにも分かっていないのではないか」

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