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〇〇九

 時間というものは、なかなか素晴らしい。未だにその実態は掴めていなく、光より速い物質が発見されたときに期待された時間移動も、強引な方法以外は、まだ見つかっていない。その強引な方法でも、一兆分の一秒しか時間を遡れないそうだが。

 時間に動きというものはない、というのが定説らしい。時は流れているのではなく、刻々ごとの時がひとつの川を形成しているような、どうにも説明のつかない理論があるそうだ。それが正しいのだとしたら、「時が流れた」という表現を、どう言い替えれば納得がいくのか。だがそんな面倒臭いことは結局分からず、時は流れ、昼休みがやっと終わった。

 教師が教室に入ってくる。ノックはない。前の壁につけられたモニターの電源がつき、教師の講義が始まる。私は録音機をつけた。

「試験が近い。そろそろお前たちも、受験のことを頭に入れておかなければならない時期になろうとしている。今度の期末試験は、本番の受験の形式に則り、ひとりひとり個別に行うことにした。異議のある者はいるか」

 誰も手をあげない。仕方ないから、他称優等生の私が、手をあげた。

「なにか異議があるのか」

「いいえ、異議以前に、個別の試験とは、どういう意味でしょうか」

 うんうん、個別ってなんだよー、私に賛同する声が教室を飛び交う。ああ、快感だ。楽しい。授業は楽しい。

「……実を言うと、先生にも分からない。これは上からの命令で、先生はそれに従っているだけだ。詳しいことは先生が調べておくから、とりあえず、通常と違う試験を受けるということを、記憶に留めておいてほしい」

 時間というものは、なるほど素晴らしい。未だにその実態は分かっていないが、この授業が九十分であることは、とっくの昔に決まっていたことなのだから。要するに、次の日にはもう、みんな、この話のことは忘れていた。いや、覚えてはいたのかもしれない。だが、忘れていたも同然に、彼らはなにも考えることはなかった。……と、いうことになるのだろうと、教師の話を聴いて私はすぐに予想した。明日になれば分かることだ。これで明日の楽しみができた。ほら、人生は楽しいもの。

 帰りの電車の中でも、景色を眺めていた。腕時計の音は、電車の音に掻き消されて聞こえない。日は既に沈んでいた。鞄の中にはもちろん、筆箱の他にはなにも入っていない。

 ドアノブに手をかける。無人の家は、慣れてしまえばそれほど悲しいものでもなかった。親元を逃げてからもう一年以上経つどころか、もうあと半年もせずに二年経つことになるのだから、当然のことなのかもしれない。たまには親に連絡を入れるのもいいかもしれない。喜んでくれるだろうか。ああそれ以前に、なぜ鍵が開いているのだろう。


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