〇八九
家屋に戻る。全裸のままというのはどうも憚られたので、大きめの葉で局部を隠してドアを開けた。……それでも十分に、同年代の女子高生に見せる格好ではなかっただろうが。
それもまた、杞憂であるのだし。
「……なんとも、不躾な格好だな。聖書を真似ているつもりか。その葉は無花果ではないようだが」
そこに彼女はいなかった。
ただ代わりに、病院にいたとき着ていたものとおそらく同じ――白衣の男。眼鏡をかけていた。
「まさか……」
私は、さほど驚きを込めない声で言う。予想外ではあったものの、そういえばまだ誰か生きていると、心をなにかが引っ掻き回していたのだった。やっと思い出せた。内心、そうホッとしているのかもしれない。
「その『まさか』だ。茶髪の女の子は、組織へと送ったよ」
刹那、私は彼に殴りかかろうとしていた。彼は苦笑しつつも、私を片手で制す。
「よくも親友を殺してくれたな」
一瞬だけなんのことか分からなかったが、少しして、それがニルであると分かった。
「親友……」
「きみには、おそらくいなかっただろう親友だ。私の親友は、あの乱視の黒人だった……いや、肌の色で人を形容するのはよくない。アパルトヘイトはずっと昔に終わったんだ」
ドアは開いたまま。風は容赦なく家屋に入ってくる。だが私も彼も、そんなことを気に留めるほど、冷静を欠いてはいないようだ。
「日本語の知識は日本生まれの私よりもあってね、そのせいか、わざと日本語をからかうような口調をする。韓国人が『カムサハムニダ』と日本人の下手な発音を真似て遊ぶのと同じだ。私は妙に、それが気に入ってしまってね。からかわれているというのに気に入られてしまうのだから、ニルのほうも私を面白がってしまってね。……いつの間にか仲良くなっていたよ」
だから。
「だから、怒っていると?」
「ああ、そうだ。親友が死んで、私は怒っている。きみに、死んで詫びてほしいと思っている。だがどうだ、きみは、死ぬよりも死なないほうが苦痛なのではないか? だとしたら私は、きみにどう報復をすればいい。……ここを見れば、察しがつくだろう」
私は怒った。茶髪の少女は、私の友達だ。




