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〇八四

 案外、人の心なんてそう難しいものでもないのかもしれない。結局はただの、「情報体」の塊であるだけなのかもしれない。

 人の複雑な部分は、内面的なことではなく、外面的なことだ。人の心など、手術中は誰も慮らない。たとえば感情による涙は、感情の隆起で生じる過多のタンパク質を排出するためにある。悲しみや喜びの内面的なことではなく、それによる外面的な反応が涙を流させるのだ。

 ……どうも、そういうわけでもない。分からない。素直に言うと。

 彼女に見つけられてから、もう五日が経つ。彼女の親族も、学校だって、騒ぎ立てていることだろう。担任、黒髪少女、私がいなくなって、次にまた、同じクラスに所属している茶髪の少女が、いなくなったのだ。

 ……そういえば、黒髪少女の死体は、その保護者の死体は、もう発見されているだろうか。担任の死体は、なぜかニルが持っていってしまったから、発見されることはないだろうが。

 今思えば、茶髪の彼女は、担任の死も、黒髪がもう伸びないことも知らない。病室にいるときの話を思い出せば、彼女はまだ知らないはずだ。

 ならば教えるべきではないのか。……いや、知らないままであるべきではないのか。

 そうだ。今からでも遅くないのではないか。安易に、彼女を「裏」に陥れるようなことはしてはいけない。今からでも遅くはないはずである。彼女を全うな「表」の人間として、間違っても組織に加わったりしないように。

 ――私が彼女を救う。

 今頃なにを言っているんだと、頭の中で自分が反論する。だが、無視だ。どれだけ「裏」が強大であっても、結局は「表」の「裏」でしかない。なにを言っているのか自分でもよく分からないが、だから、私が彼女を救うのだ。

 でも、どうやって。

 ……ひとまず、ニルと彼女を会わせてはいけない。絶対にいけない。もう会わせてはいけない。

 きっともうすぐニルが来る。そのとき、彼女とニルを会わせてはいけない……のだから、ニルをこの家屋にまで来られないようにしなければならない。

 そのためには、そうだな。今からドアの外に出て、家屋に入れないように、見張っておくとしよう。

 風は冷たいが、もし彼女が「裏」に嵌ってしまったときの人生は、きっと、もっと冷たいものとなるだろう。

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