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〇七五

 忘れているはずがない。

 覚えていないはずがない。

 紫、紫、私の瞳が紫。

 あの獣と同じ――紫の瞳。

 そういえば大山に咲く花は、紫色だった。種は黒だったが、それは外から見たときの話だ。私は種の中身を見ていない。もしかしたら、真紫だったのではないか。そうでなくとも、花が紫色になるような、そんな成分が種には含まれていたはずである。

 だとしたら。

「あの獣自体は、突然変異により生まれたものだ」

 白衣は像のように動かない。

「死なない性質というものは、おそらく、突然変異の後に起こったことだ」

 眼鏡は犬のように、忠実にじっとしている。

「むしろ、あの花にこそ、そのような性質があったといえるだろう」

「それに気付いたあんたらは、私にそれを持ってこさせた」

「……『あんたら』という言い方は、少しおかしい。きみも、その『あんたら』の中にいるのだから」

 突然変異自体は、それほど珍しいことでもない。突然変異といわずとも、気候に即した進化なのかもしれない。獣たちは生まれた。その獣たちは、おそらく肉食だっただろうが、なんらかのことがあって、山頂に咲く紫の花を食べた。するとそれが作用し、もはやこれまでの武器が通じない化け物となった。

 それが、真実。

 医師の手が鏡を放した。重力に従い、それは運動エネルギーを増しながら、床へと堕ちる。そして割れた。破片が飛び散る。

 医師はそのなかから、二番目に大きめの破片を拾い上げた。

 そして、それで私の首を切る。

 本当に自然な流れで、実際は重力に反しているというのに、流麺のようにすらすらとした動きだった。私の首から、公園の噴水のように、いきなり血が噴き出る。

 悲鳴を出す余裕もなかった――いや。

 痛みを感じなかった。

「人は慣れる生き物ネ。それじゃあ、ベッドを汚すだけネ」

 気付けばカーテンが開いていて。

 青ざめた茶髪の少女の横に、へらへらとした、芯の細い黒人がいた。

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