表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/100

〇六九

 彼女はまた「命中」と呟いた。黒いボブカットが、ライフルの振動で微かに揺れる。

「『裏』にも『表』のような、社会がある。階級がある。ルールがある」

 男がそう言った。だがすぐにまた、弁は彼女が執っていく。

「そして『裏』にも『組織』があるのよ。体の組織ではなくて、団体という意味の『組織』。『組織』は『表』に気付かれないまま、『表』の手助けをするのよ」

 膜の中でも、気温に変わりはなかった。そういえば銃声も聞こえるのだから、この膜が防ぐのは、物理的な衝撃のみということになる。毒ガスでも流されたらおしまいだ。

「私たちは、『反組織団体』の人間なのよ」

 聞く言葉自体は、百科事典にでも載っていそうな言葉だ。だが今になって、この意味不明さが分かってきた。組織があって、反組織団体があって……。表? 裏?

 それでも彼女は語り続ける。

「『裏』にだって人情というものがある。だから賛成意見や反対意見もあるのよ。『組織』に反対する団体、それが『反組織団体』。私たちは、そこの人間なのよ」

「だからこうして、争っている」

 男が口をやっとのことで挟んだ。どうもこの男は、会話が不得手なようだ。

「『裏』を知ってしまったのだから、君も、もう『表』へは戻れない。無知の『表』には」

 意味深なのか短絡的なのか。男が続けてそう言う。真っ黒い服は、光をも吸い込むブラックホールのようだ。

「君の命は保障しよう」

 やっと、意味の分かる台詞を男は言った。

 だが、意味の分かる言葉はそれだけだった。男が言う。

「君は今日から、『反組織団体』の人間だ」

 銃声が響いた。膜の内側からではなく、外側から。膜はそれを受け止める。

 だが、膜が消えた。

「相殺か」

 男が冷静にそう呟く。

「離脱」

 女が呟く。するとたちまち、僕たちの体は薄くなり、ついには見えなくなってしまった。

 ――気付くとそこは森ではなかった。

 だが、見覚えはある。

 そうだ、ここは森の奥にある広間だ。

 辺りを見渡す。なにもない。ただ足元に、二つの屍が横たわっているだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ