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〇五五

 彼女の両親は、ある企業の社員だった。と、彼女は思い込んでいた。思い込まされていた。だがそれは、虚しい嘘で、本当は、両親とも、反組織団体の人間だった。それも、上層に位置する役職であった。真実を知る、人間であった。

 真実。

 反組織団体は、実は組織の部署のひとつであった。仕事の効率化を図るために。データの収集をより多面化するために。多くの人間が騙された。

 彼女が反組織団体に入ることになったのは、ある事件に巻き込まれたからだった。両親が亡くなった数週間後、ある電車に乗っていた人間全員が、毒殺された。彼女は、その毒ガスの入ったタンクを担いでいる人間を、目撃してしまっていた。目撃されたことは、相手にも気付かれており、殺人が済んだあと、彼女は拉致されることになる。中学を卒業して、もうあと数日で高校生になる、そんな時期のことだった。

 その人間は、人体実験遂行部の人間であった。その人間が彼女の処理にあぐねているところ、反組織団体の人間が彼女を救出したらしい。組織、反組織団体。そんな裏の世界を知ってしまった彼女は、その世界に住まざるをえなくなる。組織に対する憎悪を抱き、彼女は反組織団体の一員となった。両親がそこの幹部であったことなど、知ることもなく。

 純粋であった彼女は、新しく保護者になった祖父母に、秘密事を持つようになった。それまではいつも学校でのことを、両親に包み隠さず話していた、純粋な子であったのに。

 ベッドの下に、毒や銃器を隠した。これだけではマズいと思って、ベッドの下は、装飾を付けて見えないようにした。

 それから、彼女は高校生になった。もしかしたら、自分のように裏の世界に入り込んでしまった人がいるかもしれない。そう彼女は思った。だが誰もが屈託なく笑い、未来を楽観的に眺めていた。そんな中、たった一人だけ、他と違う子がいた。その子はなにかを探るように、あたりを見回していた。挙動不審というわけでもない。

 彼女はそれを見てから、その子に注意を引くようになった。もしかしたら、私の同士なのかもしれない。もしかしたら、敵、組織の人間なのかもしれない。それとも、ただの、変な子なのかもしれない。

 ずっとその子のことを考えているうちに、彼女はその子に恋をしてしまっていた。そして、高校二年生になって、告白した。

 私と彼女は、窓から月を眺めていた。死ぬ前になって、こうもまで懐古してしまうのは、まだ生に未練があるからなのかもしれない。そう彼女は言った。私は答えた。生に未練があるんじゃなくて、表の世界に、君は憧れていたのだと。もう、到底戻れないのだと。

 オレンジジュースを、一気に飲み干す。

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