〇五四
恋人に銃口を向けながら、嘲るように女は言った。
「人体実験遂行部は、組織の一部だ」
言っていることは、当然のことだった。人体実験遂行部、それは文字通り、人体実験を担当している部署だ。組織からの命と資材で、データを得る。
「じゃあ、反組織団体は?」
今度は当然のことを訊いてきた。答える必要もない。私たちは口を紡ぐ。
「お前らは今、こう考えてるんだろう。『そんな質問、答える必要もない。反組織団体は、組織の敵、組織の邪魔をする連中だ』ってな」
くくく、胸の奥からそんな声がする。女の嗤い声。
「そんな幻想は、さっさと捨てるこったな」
ぎろりとした目つき。何人も殺してきた視線。薄ら笑い。薄ら嗤い。
「ああ、反組織団体。私もそこに入りたかったよ。もう少し学生時代の成績が良けりゃな。今となっては、もう少し勉強しといたほうが良かったと思ってる」
なにがそんなにおかしいのか。女は嗤う。足元がぺちゃぺちゃと鳴る。足を動かすごとに、ブーツが血を跳ねるのだ。
「なにせあれは――スリル満載の『部署』だからな」
私の恋人が顔を上げる。私も、女の顔を凝視した。へらへらとした表情からは、真偽は測れない。
「いいこと教えてやるよ。反組織団体も、組織に内包された『部署』なんだ」
仕事をしているとき、障害物があるほうが、かえって効率は良くなる。例えば、ゲーム好きの少年にとって、なにもない休日と、試験期間中の学校帰りでは、圧倒的に後者のほうがゲーム意欲が湧く。
そのために作られたのが、反組織団体。組織に邪魔をする。だが絶対に核心を邪魔することはなく、一般的に、底辺部の従業員たちを奮起させるために邪魔をする。あるいは、邪魔をすることで、組織内だけでは得られないデータを集める。
あえて組織の外の存在を確立することで、中の存在意義が強まる。
だがときに、そんな事情なんて知らない組織の人間と反組織団体の人間が争うこともある。真実を知るのは、こちらもあちらも上層部の人間のみ。まるで実験体のように、騙され邪魔され殺し合う。
「お前の親、知ってるぜ。反組織団体の、幹部に値する人間だった」
彼女は言う。拳銃を指代わりにでもしているように、恋人に。
「だが表面状は、ある会社の一般社員。お前は騙されてたんだ」