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〇五〇

「AF-117」

 恋人が、黒い髪を揺らしてそう言った。罪悪感に苛まれ、紅の沼にはまっていった人形のように。

 嘘だ。嘘だ。それ以上先を言うな。懸命に真実を否定する。答えはとうに出ていた。それを、さも今になってネタ晴らしするように、彼女は。

「私が、それの、リンク先」

 言い放った言葉は、やはりありきたりなものだった。耳を塞ぐ。今頃そんなことをしても、聴神経を伝う。

 講堂の準備室は、堕落の入り口だった。私たち二人だけでなく、ここで性交をした生徒は、おそらくたくさんいるのだろう。教師が滅多に来ない場所。律儀にもルールまで建てて教師にバレたりしないように細心の注意を払って。そうやって何年も、歴史のように生徒を伝っていったのだろう。女子の連中が、トイレに(たむろ)して飴玉を口に入れるのとは、格が違う。飴では済まないような、罰則では終われないような、そんな校則違反。あるいは、社会違反。今現在、ここの鍵は一体いくつ作られ、一体いくらの人間が持っているのか。卒業式のときに、こっそり後輩に伝授したりもする。その後輩が、既に持っていることもある。そんな歴史を、私は壊してしまいそうになった。

 ここを使用するにおいて、最も注意すべきなのが、教師も鍵を持っているということだった。鍵はコピーしただけであり、盗んだわけではない。盗んだりしたら、運が悪ければ、鍵穴を作り変えられかねない。その対応策として、ダンボールがある。講堂に誰か足を踏み入れると、そこに設置された小型センサーが反応し、準備室にあるダンボールが揺れる。それを確認したらすぐ、行為を中止してダンボールの中に潜まねばならないのだ。ダンボールはふたつある。ルールとして、準備室の利用は一回につき二人までだ。三人以上で一気に使うことは許されない。ダンボールを増やせばいいとの意見もあったが、三つも見知らぬ箱があるのは、さすがに教師の目に付くかもしれないという意見が支持された。本当は二つでも危ういかもしれないが、それでは二人で使用できない。ほとんどの使用者が、男女の一組なのだ。

 恋人が、俯き顔でスカートをはく。元が何色だったのかもう思い出せないほどに紅くなっていた。それでもはく。それは着物女の強要ゆえというわけではなく、彼女自身が、下半身を隠したいと願ったからなのかもしれない。スカートは短いが、下半身は綺麗にも隠れた。

「やっと理解したかい」と、着物女が言う。

 私は女を睨んだ。

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