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〇四九

 私の恋人が、身を強張らせた。下着を取り落とす。

「気付いていないとでも思ったか。敵対者」

 彼女はそう言って、両拳のワイヤーを、丁寧に外していった。自分の手が落ちたりしないように。外し終えるとそれを、倒れて動かない胴体へと落とす。まるでお供え物を渡すように。されど乱雑に放り投げる。お前はこれで死んだのだと、見せしめ地獄へ引きずるように。

 私は服を着終えた。服といっても、それは制服だ。黒い上着に血液が染み渡って、朱色とも言いがたい色が出来る。校則違反。学校の制服に細工をすることなかれ。これで私の制服は二着とも、使い物にならなくなった。いや、一着目はまだトラックにあるだろうから、手に入れれば支障はない。

「お前の家には、一着しか制服はなかったな。もう一着は、お前を脱がすときに、お前が気絶しているときに破ってしまったから、もう制服はなくなったわけだ。学校には行けない」

 私の思考を読み取ったのか、タイミングも恐ろしいほどに丁度良く、彼女が言う。それなら、その着物も使い物にはならないのだろうが。そう反論する余裕もない。

「お前は、おそらく今、制服についてぐだぐだと考えていたはずだ。制服ではないかもしれない。お前は、自分の恋人の真実から、目を背けようと必死になっている」

 女は嘲る。

 恋人は俯く。

 私は――私は、銅像のように固まっていた。ただ見えないところ、脳の中だけが、痛いほどに速く流れる。

 今、女はなんと言った。恋人の真実? 私の、恋人の真実。真実とは、本来は表に出ないような、真理とも言いがたい事実のことだ。表に出ないとは、隠しているということである。もちろん例外も数多く存在するが、ほとんどがそうだ。では、彼女がなにを隠しているというのだ。着物女と恋人が知っていて、私が知らない真実。その前、着物女はなんと言った。敵対者? いや、それは私を指すのではないか。着物の女、人体実験遂行部にとって、私やニルのような、純情な組織の人間は敵対者であるはずだ。仲間であると同時に、敵であるはずだ。だから敵対者とは、私のことではないのか。その前は、着物女はなんと言った。反組織団体? なぜこの状況でその名前が出るのだ。敵対者という言葉となにか関連性があるのか。もう答えは出ているというのか。この思考の速さのように、突発的に答えは浮かび上がっているというのか。敵対者とはなんだ。着物女にとっての、敵とはなにを指す。そんな、そんな訳がない。気付いても知らない。嘘だ。

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