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〇四七

 呆然と立っていた。唖然と立っていた。彼は引き戸のくぼみに手を添えながら、思考をとめる。視界を固定する。

 引き戸を開けたのは、担任の教師だった。目が真っ白になったりしていないのなら、おそらく、彼の視界には二つの裸体があるのだろう。私と恋人の。

 教師がいたことに気付いたのは、彼女に出した直後だった。いや、もしかしたら出した直後に教師が戸を開けたのかもしれない。一応の形式としては、行為に終止符を打ったところだった。終止符といっても、その後にまた文が続くこともあるが。

 担任は明らかに困惑していた。混乱していた。平静を保ってはいなかった。

 立ちんぼ。

 そして、担任の首は飛んでいった。

 私たちが担任に気付かなかったように、担任もまた、背後に忍び寄る女に気付かなかったのだ。女は両手にワイヤーを絡めていた。一本のワイヤーで、両手をつなげているのだ。それをそっと、担任の喉にまわす。そして一気に引く。表面積が限りなく小さいワイヤーは、特に抵抗もなく、担任の皮膚を通った。

 堪えきれずに、担任の首は血を噴射する。まるで噴水だ。あたりに液体が飛び散る。それを、気持ちよさげに浴びている女がいた。ワイヤーが両拳を縛っている。いや、そうではなく、両拳がワイヤーを掴んでいるのかもしれない。

 女の着物が紅く染まる。

 嘲笑的な表情を、私たちに向ける。なにも身につけていない私たちを、さも銅像を扱うように眺める。

 天井を仰ぐ。あまり綺麗とはいえなかった。

 今頃になって、私と恋人の体臭が、行為による独特な臭いが鼻をついた。それと、担任の血の臭いが混ざる。毒草で作ったスープに、家畜の糞を混ぜたような。それを飲まされているような。

 着物の女は、どろっとした髪の毛を鬱陶しがることもなく、私を見つめる。私だけでなく、恋人をも。

「感謝しろよ。これで、退学はしないで済む」

 胸の奥から、彼女は笑う。嗤う。髪の先から、着物の至るところから、ぽたぽたと血が滴っていた。紅い水溜りができる。

 やっと思い出したように、担任の軸を失くした胴体が倒れた。それが、先に床にいた首とぶつかる。首がころころと転がる。担任と目が合った。私は、逸らすことなく、一層強く見つめる。あんたは死んだんだ。

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