〇四六
卑猥と捉えることもできた。だが私はそれを、青春を生きる男女から算出された、当然の結果であると看做した。そう、これは結果なのだ。なにかの過程ではなく、青春の結果。ひとつの結果。男女の結果。非原理的な、いかにも人間らしいこと。
彼女は、この部屋が使用中であることを示すため、手紙を引き戸に挟んだ。半分は準備室の中、半分は準備室の外に晒されている。そして鍵を閉めた。
唇を合わせた。お互い示し合わせたように。目を瞑る。
互いに高校二年生の分際で、行為に及んだ。付き合いはじめてから、まだ一週間も経っていないというのに。本来なら笑って避けるべき局面だ。だが、そう。私は既に縛られていた。AF-117との六回の交わりで、私の体はその快楽に依存してしまっていた。彼女の要求を断るという選択肢は、到底拾えないほどに小さくなっていた。サハラ砂漠に落としてしまった、沖縄の一粒の砂のように。
おそらく彼女は生娘だ。おそらくと言うまでもなく、彼女は処女だ……と思う。
ただ、AF-117とは決定的に違うことがあった。それは、恋人が本物の人間であること。アンドロイドではなく、産道を通ってきた人間であるということ。それだけで、こんなにも違うものなのか、快楽は二倍にも三倍にもなっていた。若い悦び。
避妊具は持っていない。だが、ひとしきり絡み合った後、挿れた。AF-117とは、それが当然のことだったのだ。体は快楽を前に、耐えることなどできない。また、彼女もそれを望んでいた。享楽ならぬ狂楽。二人の男女が、男子高校生と女子高生が、講堂の準備室で罪を犯していた。ただその結果だけが、快楽となって私を揺り動かす。
罪こそが人間的な行為なのだ。原理に反した生き物ことが、道理を超越し潜伏した生物ことが、人間なのだ。宗教もなにも関係ない。私は無宗教なのだから、詳しいことは分からない。だが、この行為が罪深いことであることは、なんとなく分かった気がした。だから、だからこそ、私は恋人を犯す。
彼女がなにを感じているのかは分からない。絶大な痛みに打ち拉がれているのかもしれない。私よりも広大な快楽に沈んでいるのかもしれない。私は、自分の快楽にだけ走る。走る。
個々が自己を欲していた。個々が相手を欲していた。それぞれ自分のことだけを考え、自分の求める快楽を得ていた。予定調和。なんにも分からなかった。ただ行為をしていた。壊れてしまいそうなくらい行為をしていた。混乱して錯乱して乱れて乱れて。なにも、本当になにも分からなかった。
だから、引き戸が開いたことにも、すぐには気付けなかった。