表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/100

〇四五

 中には誰もいなかった。てっきり、あの女が待っていると思ったが、どうやら私のほうが先に来たようだ。

 だが、それは軽率な勘違いであった。ダンボールがごとごとと揺れる。他の生徒たちが来ても問題が起こらないように、隠れていたのだろう。ダンボールから、黒髪が覗いた。

「……え」

 ダンボールから出てきた人間は、着物を着てはいなかった。それは――今日学校を休んだはずの少女――私の恋人だった。

 制服姿ではない。「えへへ」と、無邪気にも彼女は笑顔を見せる。完全にダンボールから姿を現す。それは紛れもなく、私よりも背の低い、恋人であった。黒髪が艶やかな、恋人であった。

「手紙、読んでくれた?」

 そう彼女は笑う。

 ずっと、着物の女が書いていたと思った字は、恋人の字だった。私は上着の右ポケットから、白い紙を慌てて取り出す。彼女がにやけ顔でそれを取り上げる。

「びっくりした?」

 彼女のパーカーは鼠色をしていた。スカートは、大人びた色彩をしている。だが、あまりに短い。膝上なんセンチかのところで、扇情的にスカートが揺れる。

 そんな格好の彼女は、なんの言い訳もせずに、私に抱きついた。私の胸に、彼女は頭をうずめる。私はそっと、腕を彼女の背中にまわした。

「昨日の夜からずっと、ここにいたんだ」

 消え入るような、それでもはっきりとした声で彼女は言う。

「衝撃的な『生きてる』って感触。頭を殴られたみたいな、突然の感覚だった」

 なにを言っているのか、よく分からない。

 ぎゅうっと、彼女が腕に力を込める。密着。私もそれに準じて、力強く抱きしめた。「痛い」と、笑いながら彼女は言う。私は慌てて腕を離した。それでも、彼女はまだ私を抱きしめている。思い出したように、私は腕をもう一度まわした。やさしく、包む。

「……しよう」

 彼女が、今度は頼りのない声で言う。うずめた顔は、よく見えない。

「……うん?」

 聞こえなかった。聞き返す。

 照れくさそうに、彼女は私から離れた。自分の右頬を撫でて、もう一度彼女は言う。

「エッチ、しよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ