表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/100

〇三九

 どうしたものか。早急にニルに伝えておくべきであろうが、どうも、言いづらい。全く、なぜ財布がないのだ。

 私はトラックの荷台で目覚める前は、AF-117とある小部屋にいたはずだ。その前は、いつものように学校に行っていた。学校へ財布を持っていかない高校生はいない。だから、私は財布を持っているはずである。ところが、ない。

 そしてすぐに、私は理解した。服が、違う。私の財布は、制服の右ポケットにあるはずだ。が、私は制服を着ていなかった。上半身は黒く、下半身は白い。そんな服だ。トラックで運ばれるとき、着替えさせられていたのだ。今までそれにも気付かなかったと思うと、自分を叱り付けてしまいたくなるが。

 ならば、気兼ねなくニルに言える。

「私の、服は……」

 だが、つい遠慮がちな声になってしまった。店の者に、話を聞かれるのを恐れているのかもしれないが。

「ああ、あれはトラックにあるネ。困ったネ。スクールユニフォーム必要ネ」

 まあ確かに制服そのものも大事だが。

「えっと……それと」

「スクールユニフォーム。日本の文化ユニークネ。おれが行ったスクール、それ、ないネ」

 やはり、日本国外で生活していたのだろう。アメリカの生徒は制服を着ないだろう。もしかしたら知識不足の偏見なのかもしれないが。まあ、ニルがアメリカ人だとは限らないのだが。

 レモンスカッシュはちまちまと減っていった。会計を遅らせているようだ。だがその主犯は私だった。

 幸いなことに、今日は休日だった。目覚めたのが気絶した日の翌日であるのなら、の話だが。そうでなかったとしたら、色々と一大事だが。制服も、実は家に予備がある。私の予想では、あの女はもう私の家には来ないだろうから、また自分の家にも行けるだろう。なら、特に問題はない……今この瞬間を除いては。

 ま、まあ、仕方ない。ニルに払ってもらうしかないか。

「大丈夫ネ。スクールユニフォーム、買ってあげるネ」

 ニルはまだ、私の制服について考えていたようだ。家にもう一着あることを伝えなくては。だが突然ニルは、なにやら感嘆のような詠嘆のような声を漏らすと、手を組んで私にこう言った。

「ソーリー。今、金がないネ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ