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〇三六

 ニルが獣の額にビー玉を撃ち込む。ビー玉が効くのかと疑問に思ったが、それは瞬時に解消された。獣の顔がひしゃげる。

 ニルも、思ったよりも効果が大きかったことに驚いているらしい。だが、もっと驚かなくてはならない。

 獣は、頭が潰れてひるんだが、またニルのほうに飛び掛ってきた。獣の顔は、咲いた花のようになっているというのに。ニルは今度は落ち着いて、ズボンの右腰からナイフを取り出す。今まで気付かなかったが、彼の体には、いくつかの武器が隠されているらしい。ナイフを振りかざす。咲いた花が茎から落ちた。

 ひとまず安堵したような表情を、ニルはとる。そして、着物の女へ視線を向ける。

「ニル!」

 私は知っていた。まだ安堵するには早すぎる。ぐらぐらと、獣が起き上がっていた。着物の女は、高いところから楽しそうに見物している。あの女は、知っていたのか。この悪夢を。

 私に名前を呼ばれて、やっとニルは異変に気付く。獣から退き、しゃがむ。なにをしているのかと思えば、彼の左靴にはレーザーガンが忍ばされていた。ナイフをもとのところに戻し、それを両手で持ちながら膝を伸ばす。そして躊躇なく、起き上がった首なしの獣に光線を発した。目にも留まらない速さで、赤と緑の細い線が獣を切り刻む。

 私は少し、後ずさりした。どうせ、そう、どうせ。

 ニルが顔を青ざめた。黒人も、顔を青ざめたら案外分かるものだなと、答えを既に目にしていた私は、見当違いなことを考える。続けざまにニルがレーザーを撃つ。その度に獣の体は粉々になる。が、依然として、獣は死なない。

 獣の血液が、ぷちぷちと散乱していた。それが動く、動く。少しずつ、胴体へと集まっていく。

 着物の女は、荷台の上でしゃがんでいる。私たちを見下げる。その顔は、嘲るような微笑みだった。

 ふと思った、どうやってこの女は、この獣を従えたのだろう。この女には、不死身の獣の殺し方を、飼い慣らし方を知ってでもいるというのか。……いや。女は、獣を動かすとき、空へ向けて銃を撃った。結局は、動物心理学。余裕ぶって笑っているが、もしかして、この女、獣が逃げ出したりしないか内心焦っているのではないだろうか。ふとそう思う。

 確かめてみようと思った。大山で遭遇した獣よりも、目の前の獣はどうやら治癒能力が高い。なにかの薬を投与されたのかもしれない。もう数分もすれば、もとの状態に戻るだろう。逃がしてみよう。

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