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〇三五

 ニルがトラックをとめる。ニルも、今の物音で気付いたらしい。私は、そっと、二台への窓を覗く。だが、中を確認する前にニルに阻止されてしまった。

「顔、攻撃される危険あるネ」

 小声で、そうニルは言う。

 荷台の中は、嘘のように静まり返っている。

 ニルが拳銃を取り出した。いや、よく見ると子供向けの、ビー玉を撃つものだ。なぜそんなものを。取り出してから、ニルは私に、ドアを開けるように指示する。私は自分側のドアを開け、降り、反対側に周り運転席の側のドアも開けた。

 それを確認して、ニルは慎重に、荷台の中へそれを向ける。そして、撃った。勢いよくビー玉が飛び出て、荷台の壁に当たり甲高い音をたてる。ビー玉が転がる音が響き――それは勢いをつけて荷台から飛び出てきた。ニルはとっさにトラックから飛び降りる。

 人間ではなかった。四足歩行の、虎のような。

 はっと、私は唾を飲み込む。その動物に、見覚えがあったからだ。ニルがドアを閉める。だが反対側のドアは開いている。失敗をした。動物が、助手席側のドアから降りてくる。

 虎のような顔から、白い牙が二本、伸びていた。両目が紫色に染まっており、濁ったクリーム色の毛で覆われている。肉食獣特有の唸り声。私の耳が揺れる。

 二ヶ月ほど前の悪夢が、瞬時にして蘇る。

「あれは……」

 私はつい、言葉を漏らす。思ったよりも、大きな声だった。ニルが、私に顔を向ける。

 獣は、ドアからトラックの周りを回るように、トラックの後方からまた現れた。折れそうなほど、四本の脚は細い。だが、氷河期の動物のように毛が深い。

「パーポーアイズ」

 ニルがそう言う。紫の目という意味だ。大山で見たあの動物と同じ、紫色の目。

 私たちは獣と見つめ合っていた。互いに、微動だにしない。ただ獣の息と、私の鼓動が聞こえるだけである。ニルは、空気のように静かにしている。ただ目が、これからどうするかを思案していることを物語っていた。細かく揺れる。

 張り詰めた空間。これ以上引っ張ったら切れてしまいそうな、そんな糸の上に私とニルはいる。あるいは、獣もそこにいる。二人、二人と一匹は、糸が切れたりしないように、動かない。思考を巡らせ、この打開策を思案するばかり。

 だが、無慈悲にも糸を刺激してくる者がいた。銃声が響く。私とニルは一斉に、銃声のほうを見た。それはトラックの荷台の上だった。

 着物姿の女がいた。銃声に驚いて、獣が目の前の人間に襲い掛かる。

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