表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/100

〇三〇

 窓を叩いてみた。トラックの荷台は揺れて、あまり力を込めたものではなかった。たがそれだけで、運転席の人間は反応した。窓が開く。胎内に差し込む光。母親のはらわたを抉られたような光。

 窓から覗き込む顔は、予想に反して母親ではなかった。サングラスをかけた、やせた黒人だ。頬がこけている。

「起きたようだな」

 そう母親の声がした。だが黒人は口を動かしていない。声は黒人の後方からのものだった。黒人の顔が窓から消える。その先には、ハンドルを握っている母親の姿があった。

「ニル、窓を閉めろ。話すことはない」

「そんなこと……ないネ」

 黒人がそう受け答えする。どうやら、この黒人の名はニルというようだ。サングラスが鈍く光を反射する。――すぐには気付かなかったが、もう太陽が出ている時間になっているようだ。私が気絶したときは、もう暗かったはずだ。何時間眠っていたのだろう。

「どういう意味だ、ニル」

「このボウヤ。精神的ショックあるネ。会話、大事」

「ふん、私にはそう見えないけどな」

 凸凹した道に揺られながら、トラックは進む。母親はハンドルを握っていて、助手席に座っているニルは、背もたれを抱くように私のほうを向いている。

 ニルがそれでも窓を閉めずにいると、母親は観念したように、どうでもよさげな風に「勝手にしろ」と呟いた。それを聞いて、ニルの顔がまた窓を占める。

「おれ、ニル。よろしくネ」

「……」

 私がなにも言わなくても、ニルは口を動かす。いや、無言であることに満足しているともいえる表情だった。まるで、私の精神を推し量っているようだ。

「おれ、知ってる。きみ、組織のニンゲン。パートナーAF-117」

 ニルがそれを言った途端、頭が痛み出した。私の目つきが自然と悪くなっているのが分かる。

「痛がる必要ないネ。パートナー、死んでない」

 まだ頭痛は引かない。一体なんだというのだ。AF-117と、この頭痛に関連性があるというのか。精神的ショックだとでもいうのか。

「死ぬ感覚感じる前に、パートナー、気絶してリンク外れたネ。本体、死んでない」

 痛みが消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ