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〇〇三

 食パンを食べる。美味しい。溶けたバターの香ばしさが舌を楽しませる。今朝の食事はこれで足りる。年齢としては食べ盛りであるのだが、朝からそうがっつり食べる必要もないだろう。それに金もない。

 食べ終え、制服を着る。私立挽磨(ひきま)高等学校の制服だ。紺のブレザーの三つあるボタンのうち、一番下のボタンは留めない。マナーというものだ。世の中にはマナーというものがある。法的に罰せられることはないというのに、人々は律儀にもそれを守る。なぜならば、そのほうが損が少ないからだ。マナー違反は反感を買う。反感を買うと、後々になって面倒臭いことになる。それを防ぐためにも、人々はマナーを守るのだ。駐車場に着いてから車のキーを忘れたとき、仕方ないから歩いていこうと考えることもなく、またキーをとりに家に戻るのと同じことだ。キーをとりにいく時間は損した時間だが、その分、もっと大きな損害を防ぐことができる。つまり、世の中は損で構成されているのだ。どれだけ損を少なくするかが、世の中の優劣を決める。キーを忘れるような失敗から成っている世の中なのだ。得なんて、実は皆無なのだ。

 筆箱しか入っていない鞄を持って、私はドアノブに手をかける。教材は全て学校においてある。家に持ってくる必要がないのだ。宿題は全部学校にいる間に終わらせてしまえばいい。家に帰らないとできない課題なんて、そう頻繁には出ない。予習や復習をしようとも思ったことはない。思ったとしても、私はそれを、学校で済ませてしまうだろう。できれば筆箱も学校においてしまいたいのだが、それは残念ながらできない。筆箱は主に筆記用具を納めるための道具だが、私の場合、少々違う。いや、違うということはない。ちゃんと、学校に筆箱はおいてある。だから筆記用具を使わないだとか、そういうことを言っているわけではない。私は筆箱を二つもっているのだ。ひとつは学校で全うな筆箱として使い、そしてもう一つは。

 ドアを開ける。あ、鍵を忘れた。すぐにドアを閉める。さきほどまで食パンを食べていたテーブルに、待っているように鍵が置いてあった。なんと、鍵と一緒に、ビニール製の小袋も忘れていた。てっきり、昨日のうちに筆箱に入れたと思っていたのだが。


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