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〇二六

 首無しの野獣が、四本の細い足で起き上がった。恐ろしくなって、私はそれに対してレーザーガンをもう一度放った。首の付け根のあたりが、ぐちゃぐちゃに抉れた。野獣の血肉があちこちに飛び散り、山頂の地面が染まっていった。

 それでも野獣は動き出した。痛みを感じているのか、四つの足をばたつかせていた。尻尾のようにしなっていた。私はその四つをレーザーガンで切断した。足は胴体から離れた。……というのに、足は痙攣するように動いていた。そして地に足の裏をつけて立ち上がったと思うと、私に向かって飛び掛ってきた。ズボンを引っかかれた。間一髪で、爪が体を抉ることはなかった。ただズボンだけが千切ちぎれた。私はその足を掴んで、山の舌へ放り投げた。足は落ちていった。残り三本の足も立ち上がろうとしていた。私はレーザーガンでそれら全てを粉々にした。胴体も同じように、レーザーガンのエネルギーが尽きるまで光線を発射して、さらさらとした粉にまで分解した。

 それでも――粉はふつふつと揺れていた。まるで、まだ意思を持って動こうとしているように。使い物にならなくなったレーザーガンを放り投げて、そこを走り去った。山頂から麓まで走った。途中転んで、ズボンの破けたあたりに木の棒が刺さった。それでも走った。会ってはいけないものに遭遇してしまった。ただ怖くて、ここにいてはいけないと肌が感じ取って、私は大山を後にした。大山の麓には川が流れていた。そこで血を洗い流そうと思ったが、そこにもなにかがいるような気がして、私はそこを逃げ去った。

 日本で一番人口の少ない地域。過疎化は最終段階にまで進み、高齢者を除けば、住人は一人もいなくなってしまった地域。

 家に帰るまで、ずっとあの、紫色の瞳が脳裏に浮かんでは消えていた。死んでも死んでも死なない野獣。

 家に入ると同時に、六畳だけの空間が歪みだした。突然のことに私は驚いたが、すぐにAF-117の仕業だと思い至った。そういえば、AF-117との初体面のときも、こんな現象が起きていた。吸い込まれていくような感覚がした。蟻地獄に飲み込まれる蟻の気持ちだった。どうあがいても、空間は歪んでいった。

 私が蟻地獄に完全に捕らわれると、目の前に女が現れた。二十代前半あたりの容姿をしていた。彼女は私を一瞥すると、私にそっと近づいて、無言で足の怪我に手を添えた。そうしたら痛みは和らいでいき、ついには痛みはなくなっていっていた。痛みが消えただけではなく、傷そのものも、それどころか、ズボンの損傷も元通りになっていた。情報型アンドロイドが、情報操作をして治療したのだと、当時の私は思った。

 彼女が私の足に手を添えるとき、大きな胸が視界に入った。女性経験が皆無だった私は、どうせ相手は人間ではないのだからと、あの恐怖を押し消そうと「性的報酬」を選択した。

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