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〇二五

 野獣と対峙したことがある。AF-117に会って最初の任務のときだ。任務の内容は、山奥の、ある花の種を採取することだった。山を登って種を採取するだけだと、その任務を私は侮っていたのだと思う。その山には危険な生物が潜んでいた。

 開発不要地域に指定されていたその山には、人工のものが極めて少なかった。開発不要地域だと指定された以前の、およそ半世紀前の人工物しかなかった。私はそこに潜り込み(開発不要地域は、基本的に侵入禁止だ)、山頂を目指した。標高一七一三メートルの山だ。登るのに一時間以上かかった。山頂には石碑があった。ずっと昔に作られたものだろうと推測できた。標高と山名が書かれていた。

 その石碑のすぐ近くに、目的の花は咲いていた。紫色だった。種は黒く、硬かった。二ダースほど種を採取し、AF-117から受け取っていた小袋に入れた。念のため、半分の量の種はズボンのポケットに入れた。小袋を紛失してしまったときのためである。

 山頂からの眺めは、思ったよりも綺麗だった。いや、思ったよりも、という言い方はおかしいかもしれない。山頂の眺めを、あらかじめ想像したりはしなかった。そんな必要はないと思っていた。だが、いざ来てみると、感動に値する壮観が、そこにはあった。しばしそれに時間を奪われていた。組織は、さほど時間にうるさくはない。時間の制約があったほうが、人間は良い結果を出すといわれている。が、組織はそれよりも、仲間の自由度を求めたのだ。それを知ったときは、私も組織の一員として作用できていることを、心から喜んだと思う。

 十分ほど眺めていたと思う。日常の生活では、なかなか見ることのできない景色だ。電車から眺める景色とは、わけが違う。もうそろそろ帰ろうと、昔は「大山だいせん」と呼ばれていたらしい山の山頂をあとにしようと振り返った。そこには野獣がいた。

 虎と猪が合わさったような姿をしていた。虎の黄色い顔から、白い牙が二本、伸びている。ぎらぎらとした瞳は紫色で、毒々しかった。尻尾はないが、四本の足は、尻尾のように細かった。しかし見たところ毛が深い。瞬時に、新種の動物であると思った。

 野獣が襲い掛かってきた。私は咄嗟に跳びよけ、緊急用のレーザーガンを取り出した。地面に体を滑り込みながら、引き金を引く。緑色の光線が瞬時に発射され、野獣の首をはねた。

 飛びよけたとき、左肘を擦りむいていた。うっすらと血が滲む。これだけの怪我で済んだことに安堵して、私は立ち上がった。

 新種なのだから、研究材料になるかもしれない。これを持ってかえれば、上手くいけばボーナスだ。私は首のない野獣へ歩み寄った。

 が、野獣はまだ生きていた。

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