〇二三
彼女を家まで送った。彼女の家は思ったよりも大きかった。聞く話によると、祖父母と共に暮らしているらしい。
最近の高校生は、ほとんどが一人暮らしだ。私の場合は違うが、最近はそういう風潮になっているらしい。古風な母親には、通じなかったのだが。
さらに聞いてみると、彼女の両親は亡くなっていたそうだ。二年ほど前に、殺されたらしい。それを聞いて泣きたくなったが、泣き顔を恋人に見せるのが少々嫌だったので、気丈を保った。そんな私を彼女は、ちょっと悲しそうな目で見たかと思うと、ばいばい、と手をふって家の中に入っていった。
それからは、少し緊張した。夢のような「表」のターンは終わり、「裏」のターンに移ったのだ。私の、裏の世界。
電車には乗らず、そこから歩いて隣駅まで行く。誰かがつけてきているかもしれないが、それに怯える素振りは見せないように意識して。隣駅につくと、切符を買う。だが改札口を通ることはなく、そのまま次の駅まで歩く。この行動は、「情報体」を認知する物体が機械的であったときのための対処だ。切符を買うとき、人間は少なからず電車に乗ることを頭のなかで思い描く。乗るつもりが全くなくともだ。それらの人間的な誤作動が作り出した「情報体」は、非人間には認知しづらい節がある。それを利用したのだ。一時的にでも敵を混乱させ、その間に駅から離れる。そうすれば、もしつけている者がいたとしても、そいつは私を見失うということだ。もちろん、これはそのつけている者が、人であっては無意味なのだが。
人間に対しての対処法は、正直分からない。人間は「情報体」そのものを感じとることはできない。できるのは「情報体」が集まって形成された感情だ。単体の「情報体」は認知できない。それを利用すればどうにかなるのだろうが、彼女はその方法を教えてはくれなかった。つける者がいたとしても、その者が人間である確立は〇に等しいと、そう判断したのだろう。どういった計算方式なのか知らないが。
次の駅につく。そこの一隅に、サングラスをかけた女が立っていた。彼女がアンドロイドではないと知った今では、この呼び方が間違っていることは明白だが、AF-117だ。いや、アンドロイドではあるのか。情報型ではないというだけで。彼女の話によると、本体の人間が他のところにいるというのだし。考えてみれば、その本体の人間とは会えないのだろうか。まだ信頼されていない、ということだろうか。確かに、私は特に、組織に対して悪く思ってはいない。私が中学三年生のときから憎んでいるのは、組織ではなく人体実験遂行部だ。そんな私が、反組織団体に完全に協力できるのかと訊かれれば、答えはノーなのである。ただ、この女に協力することはできるが。