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〇二二

 恋人ができるだけで。大切なのかもしれない人ができるだけで。

 教師がなにかを言っていた。新しい試験形式についての説明はまだ聞いてないし、授業の進行も早いというわけではない。それでも教師がなにかを言っていた。それは授業の合間の雑談なのかもしれない。これはどこかで聞いた話だが、授業中の教師の雑談というのも、教師の職をするうえでのカリキュラムなのだそうだ。生徒の集中力を養うための、授業を潤滑にするための雑談なのだそうだ。授業の合間によく雑談をする教師というのは、サボり性な教師というレッテルを貼られがちだが、実は、とても勤勉な人であったのだ。まあだからといって、授業の効率が上がるとは限らないが。教師の話が終わる。結局、最後までなんの話なのかよく分からなかった。

 恋人ができるとは、こういうことらしい。

 授業で教師がなにを言っているのか分からない。常に恋人に視線がいく。モニターに目がいかない。

 レッテルとは、つまりそういうことなのだろう。雑談好きな教師も、ふいにできた恋人も、ただその呼応だけでレッテルが貼られる。あの教師は怠け癖がある。そのくせして授業はつまらない。しかも試験だけは難しいときたもんだ。とんだ教師もいたものだ。そう言われる教師もいる。ふいに口付けされて、オチちゃって付き合って。まだ二日しか経っていないはずなのに何ヶ月も前から愛し合っていたように思えて。もうずっと昔から大切な人であると思い込んでいて。そう思えてしまえる恋人がいる。だがそれらは、「雑談好きの教師」だとか「ふいにできた恋人」の呼応に惑わされて生まれた、根拠のないレッテルなのだ。

 私は彼女を、まだこれっぽっちも理解できていないのだろう。だが芯まで知ってしまえているような錯覚に陥っている。なにせ恋人なのだ。彼女が私の恋人であると同時に、私は彼女の恋人なのだ。双方の関係にあるのだ。だから知ったような気がしてくる。それはきっと、彼女も同じことなのだ。それが恋人というものなのだろう。

 人の手では到底作れないような、されど無機質に近い黒。漆黒。そんな色は蛍光灯の光を受け止め、ときに跳ね返す。彼女の髪は美しかった。

 授業を受ける余裕なんてなかった。これじゃあ、今度の試験は成績が落ちるかもしれないな。そうしたら、彼女は責任を感じてしまうかもしれない。だったらやっぱりちゃんと勉強しよう。ああそういえば、試験の形式が変わるのだっけ。自分に合わない形式だったらどうしようか。いや、合わなくても基本的には大丈夫のはずだ。慣れればなにごとも苦にはならない。今回の試験形式は、本番の受験と似通っているともいうし、今のうちに慣れておくべきなのだろう。モニターを見よう。

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