〇二〇
なぜ彼女が存在できるのか、私は知りたがった。それを彼女は鬱陶しがることもなく、優しく教えてくれた。
「私は、実は、情報型アンドロイドではないの。組織の人間でもない」
彼女は言う。公園のベンチは冷たかったが、感覚は「情報体」によってどうにかなるが、それでも冷たかった。感覚をコントロールできない空間。もう分かりきっていることだが、つまりここは、情報世界ではないのだ。
「私は、反組織団体の一員よ」
戦慄が走ったのかもしれない。反組織団体。その言葉を、私はあのときから一度も、いままで一度も耳にしていなかった。
「この体は、私の本体と精神をリンクさせた人形よ。本体の私はこんな言葉遣いはしない」
彼女は話し続ける。
「数ヶ月前、組織の情報型アンドロイド出荷のとき、この体はその中に紛れ込んだ。誰か、組織のひとりに接触するために。そしてあなたと会い、あなたを通して組織の情報を仕入れた」
つまり、これは計画的なスパイ活動で、私はそれに利用された、ということか。私はそう彼女に確認をした。彼女と会話をした。
「ええ、そう。悪いことをしたかもしれない……でも、あなたは組織に反感を抱いていた……違うかしら」
「違う。組織に反感など……」
「でも、あなたは」
彼女が口をつぐんだ。言いかねているようだ。言っていいことなのか悪いことなのか、判断がつかないのかもしれない。なにかしらの規定があるのかもしれない。自分の発言がその規定内に収まっているのかどうか、判断に迷っているのかもしれない。
「……なんでもないわ」
彼女は言う。
「これからどうする」
私は訊いた。家に帰ってもいいのか。実状としては、私はまだなにも理解できていない。なぜ母親から逃げなくてはならなかったのか、気付いていない。組織の人間だったから、なのか。私が実験体に使われるとは、つまりどういうことなのか。それに第一、私は組織の人間だ。組織の人間を、実験体にならないように救うというのもおかしな話だ。それとも、私が実験体になるとなにかマズいことでもあるのだろうか。それが知りたい。
これからどうすればいいんだ。