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当て馬なんかじゃないの

作者: あらいサラ
掲載日:2026/09/15

[日間]異世界転生〔恋愛〕短編 12位

応援ありがとうございます!

――わたくしは、甘ったれたヒロインが大嫌いだ。

自己解決能力が無いくせに正義感と行動力だけは一丁前にあって、すぐ面倒ごとに首を突っ込み場を掻き乱す。そして自分の手に負えないと知ると、すぐに特別な『魔法の言葉』を唱えるの。


「クロウ〜、なんとかならないかなぁ?」


今日も今日とて、わたくしの愛しい婚約者の愛称を親しげに呼ぶヒロイン。あら、新調したばかりの扇をへし折るところでしたわ。危ない危ない。


「えぇ…それは僕の専門外だよ…」

「クロウなら出来ない事ないよ!」

「エリンがこう言ってんだから自信持てよ。やってみろって」


そう言いながらわたくしの目の前でじゃれ合う三人組。

わたくしの婚約者の公爵子息のクローヴィス。そのご友人のライナス第二王子。そして王子経由で仲良くなったのだと先月紹介された男爵令嬢のエリン。


エリンの距離は淑女としては近過ぎて、彼女にほんのりと恋心を抱いているクローヴィスはすぐに真っ赤になる。その様子をライナス王子は少し面白くなさそうにしながらも、いつも三人仲良く過ごしていた。


ーーあぁ、前世で読んでいた小説のとおりだわ。

ファンだったのか、ですって?とんでもない。全く関係のない前世の()でも、ヒロインの無責任さと王子の横暴さにはうんざりしていたのだから。


例えば、今日のエリンのテーマは『孤児院にもっと支援を!』だったかしら。貧しい孤児院を見てショックを受けた心優しいヒロインが、なんとかしなくてはと暴走しているの。


あぁ安心してちょうだい。彼女は「なんかしちゃいました?」系じゃなくて、本当に何もしないから。

何もしないならしないで無能なのだと自覚して、お口もチャックしておいてくれると平和なのだけどね。


自分では何も思いつかないから、賢く優しいクローヴィスに便利な魔法の言葉で、ハイ丸投げ。


一応、男爵令嬢なのだからご自分のお小遣いで支援するなり、周りの令嬢に声をかけて支援バザーをするなり出来るでしょうに…。あら、ごめんなさい。お小遣いはともかく、協力してくれる様なご友人はいないのかしらね。


そのとばっちりを受けるのはわたくしの最愛の方なのだけど、分かっているのかしら?貴女が思いつきで提案した事を、何とかしようと寝る間も惜しんで奔走して根回しして、形にしてくれるクローヴィスに対して、貴女は感謝の言葉を告げるだけ。目の下の隈にも気づかない鈍感ヒロインちゃん。


それだけならまだしも、クローヴィスが整えた仕組みを、国の政策として自分の手柄の様に発表する王子もいたわね。「矢面に立つのは自分でいい」だったかしら。なら盾も鎧もクローヴィスの物を使わないでいただきたいわ。それで素晴らしい王子だなんて評価されて虚しくないのかしら?


大切な友人に手伝ってもらっただけ?それは好意の搾取と呼ぶのよ。お二人ともご存知なかったの?


…そして、これでクローヴィスが幸せになれる物語なら、まだわたくしも大人しく見ていられたのだけど。小説で二人の搾取はクローヴィスの命を奪った。


第一王子と王位争いをしている真っ最中ですものね。小説の後半ではその話がメインに進められていたわ。

第一王子にとってライナス王子の頭脳となるクローヴィスはさぞかしお邪魔だったのでしょうね。でも懐柔も出来ない、脅しにも屈しない。ああ、わたくしの婚約者様はなんて高潔で素敵なの。その結果……不慮の事故に巻き込まれて死んでしまうのだけれど。


クローヴィスの死後、彼が残した第一王子の悪事の証拠を突きつけ、無事にライナス王子が王位についてめでたしめでたし。クローヴィスのお墓に向かって「お前の分までエリンを愛する!」なんてエリンの肩を抱きながら誓うシーンで締めくくられるのだけど……大馬鹿者じゃありませんの?

こんなの、最後まで二人に都合よく使われたただの当て馬じゃない。そんなの許されないわ。


…あら、第一王子を恨んでないのか、ですって?まぁ、あの事故が第一王子によって引き起こされたとは明記されていないし、…そもそもライナス王子に事件を追及するほどの能力もなかったし。

なによりライナス王子やエリンがあそこまでクローヴィスを頼らなければ起こらなかった悲劇でしょう。


悪事といっても為政者としては致し方ない部分もあったわ。潔癖なライナス王子より清濁を併せ呑む事の出来る第一王子の方がマシね。それに、教養もなにも無い男爵令嬢にうつつを抜かしている馬鹿より、侯爵令嬢という立場がしっかりしている婚約者がいる人の肩を持つのは貴族として当然でしょう?


そんなわけでわたくしの腹は決まったわ。百害あって一利無し。さっさと二人から引き離しましょう。

その結果ライナス王子が活躍出来ず王太子になれなくとも、理想を追い求めるエリンが暴走し続けようとも、わたくしには全く関係がないものね。


「ねえ、クローヴィス」

「あ、セレーヌ…。ごめん、買い物の途中だったのに話が盛り上がってしまって…」

「良いのよ。気にしないでちょうだい」


悪いのはどう見てもデート中のわたくし達に突撃してくる阿呆共なのだから。そう心の中で言いながらにっこりと笑ってクローヴィスの手を握る。女性慣れしていないクローヴィスはそれだけで顔が真っ赤になる。


「わたくしには分からないけれど、きっと大切な事なのでしょう?だったら、この場で結論を急がずに、持ち帰って方向性を決めたほうが良いと思うのだけど…」

「そ…っ、それも、そうかな……」


わたくしが肯定的に話を振ったので、二人も納得したようであっさりと引いて帰っていった。きっと頭の中では「後はクローヴィスが良い感じにしてくれる」とでも思っているのでしょう。わたくしはするかしないか方向性を決めようと言っただけなのにね。


やっと二人きりになれたわたくしは当初の予定を変更して、そのままクローヴィスの手を引いて街の奥へと入っていく。細道を抜けて奥の奥、知る人ぞ知る隠された秘密の場所へ。その建物の前まで来ると、ついてきていた付き人と護衛達の足がピタリと止まった。あら、お利口さんは好きよ。


そのまま、何処に連れてこられたのか理解出来ていないクローヴィスを引っ張り、二人だけで建物の中へ消えていった。



数ヶ月後、第一王子が立太子したと発表された。新聞の一面を飾った記事を見ながらくすくすと笑う。あの二人は今どんな気持ちなのかしら。エリンは鈍感ヒロインちゃんだから、案外何も気にしてないかもしれないわね。

そんな事を考えていると、大きな手が私を背後から包みこんだ。


「セレーヌ、何を見てるの?」

「あら、あなた。立太子の記事ですわ」

「あぁ…」


ライナス王子を思い出したのか少し暗い表情になるクローヴィス…わたくしの愛しい愛しい旦那様。


ーーあの日クローヴィスの手を引いて入っていったのは、貴族専用の()()()()()()に使用する高級ホテルで。始めはベッドの隅で、真っ赤な顔で戸惑い狼狽えるばかりのクローヴィスだったけれど、一晩かけてじっくりと愛を囁けば、次第にわたくしの愛に応えてくれるようになった。


身体で懐柔したって?お互い成人で、結婚を約束した婚約者なのだから別に良いじゃない。

生まれつき顔に痣があるせいで女性から敬遠され、自信を失っていたクローヴィス。その痣にたくさん口づけをして愛しいのだと伝えれば、彼の心は徐々に溶かされたのだった。


うふふ、思い出してもとても素敵な夜でしたわ。

こちらから強引に奪ったとはいえクローヴィスは非常に誠実だった。責任を取ると言って、すぐに両家からの許しを得て婚姻を済ませたのだ。

まぁ理由(わけ)あって結婚式は1年後なのだけどね。少し膨らんできたお腹を優しく撫でる。


「ねぇあなた。体調も安定してきたから、そろそろ仕事をわたくしにも回して欲しいのだけど…」

「いや、まだ安定期には入っていないから、安静に……」

「うふふ、貴方ばかりに負担がいくなんて嫌よ。

 寝込んでいる時に支えてくれて感謝しているの。わたくしにもちゃんと返させてちょうだい」


今わたくしはとても幸せだ。それを伝えるように唇を合わせるとクローヴィスも優しく微笑んでくれた。


ーー与えられる事ばかりを求め、何も返そうとしなかった二人。わたくしからの愛を受け取る事で、その事実に気づいたクローヴィスがこれからどう対応していくのか。

書斎の机に積み重なった未開封の二人からの手紙が、クローヴィスの答えなのかもしれない。


◇おわり◇

小説ではクローヴィスに婚約者はいませんでした。


溺愛系ラブコメ長編『オマケ召喚されたモブですが、公爵令息に外堀埋められてました』が金曜の最終回に向けてラストスパート中です!

こちらも併せてよろしくお願いします。


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