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(回想)緊急招集と異変(マレイン・ウズイカ視点)



ローレル殿下の側近となり、魔法学園に入学して二週間が経った日の夜。


俺は王宮へ緊急招集された。


久しぶりにウズイカ公爵家へ戻っていた日だった。


普段は王宮で寝泊まりしているため、実家にいること自体が珍しい。

だが――実家だというのに、息が詰まる。


食後、ようやく一息ついたところでの呼び出しだったが、正直なところ、この召集はありがたかった。


俺はウズイカ公爵家の三男。

嫡男でもなく、その補佐でもない。


家督とは無縁の立場だ。


それにもかかわらず、俺は一族で最も多くの魔力量を持って生まれた。

国の中でも上位に入るほどだと言われている。


だが――そんな力は、三男の俺には不要なものだった。


そのせいで、長兄には疎まれ、両親からは腫れ物に触るように距離を置かれ、次兄からは空気のように扱われた。


俺が望んでこの力を持ったわけではない。


どうしようもない現実に、俺は荒れていた。

そんな家の中で、唯一の救いが妹だった。


三つ年下の妹、ブランシュ。


彼女だけが、俺を家族として、兄として慕ってくれた。

ブランシュの自慢できる兄でいようと、色んなことを頑張った。


俺は要領が良かったらしく、苦もなく何でも出来てしまったのである。

長兄と次兄を差し置いて、全て俺のほうが勝っていた。


これが良くなかった。

ますます長兄と次兄からは煙たがれる存在になってしまったのだ。


俺がもっと上手く立ち回れていたら、兄たちとの関係は良くなっていたのかもしれない。

まぁ、今だから思えることだけど。


だから、ローレル殿下から側近の話を頂いたとき、俺に迷いはなかった。


――嬉しかった。

俺にも役に立てる場所があるのだと。


長兄が家督を奪われるのではないかと怯えている日々の中で俺への当たりが強くなっていた時のことだった。

俺は、あの家から離れられることに心から安堵していた。


長兄と争いたくはない。

他の家族とも。


しかし、緊急招集は初めてのことだった。

何があったのか見当も付かない。


ローレル殿下に何かあったのか……。

それはない。

すぐに脳が否定した。


あの方は魔力量も莫大だが、判断を間違えることはない。

だから、自ら危険を避ける能力にも長けている。


俺はローレル殿下に仕えて3年ほどになるが、あの方が魔法を使ったところを見たのは、たったの一度だけ。

忘れられないほどの強烈な記憶として残っている。


あんなにも魔法が神々しいと思ったことはない。

あれが王族が使う魔法。

まだ、たった13歳だったローレル殿下は、見事に魔法を使ったのである。


そのローレル殿下に何かあったとは、とても思えない。

もし、そうならばウズイカ侯爵である父も王城に招集されているはずだ。


俺は理由もわからぬまま王宮へ向かい、殿下の執務室へと急ぐ。

王宮の空気は、明らかに異様だった。


慌ただしい。

張り詰めている。


――異常事態だ。


普段から王城で過ごしているからこそ、はっきりと分かる。

自然と足が速くなる。


執務室に入ると、ローレル殿下とハーツがいた。

さらに、魔法学園の学園長と担任のシベリアン・ジンセン。


そして――。

バウム子爵家次男のシトラール。


なぜ、シトラール・バウムがここにいる?


シトラールは元々、ローレル殿下の側近候補の一人だったと聞いている。

優秀だと、ハーツが言っていた。


だが、社交の場に全く出てこない男だ。

俺は正直、ハーツの身内贔屓だと思っていた。

バウム子爵家の評価を。


しかし現実は違った。


バウム子爵家の双子の嫡男と長女は、魔法学園を首席と次席で卒業。

しかも実技・座学ともに、他者の追随を許さないほどの好成績だったと言う。


下位貴族でそれは異例だ。

王宮からも声がかかったはずだが、二人はあっさり断り、領地へ戻った。


――ならば、シトラールも本物か。


そう思い始めていた。


そして、もう一つ。

俺は知っている。


ローレル殿下の婚約者に、バウム子爵家の末娘――メリッサ・バウムが内定していることを。


最初は、聞き間違いかと思った。


子爵令嬢が王太子妃?


あり得ない。

だから、入学式の日、俺はあの兄妹に声をかけた。


確認したかったのだ。

だが、実際に見たメリッサ嬢は――。


普通だった。


魔力量も少ない。

外見も特筆するものはない。


危機管理能力には長けているようで、俺に対して警戒していた。

笑顔で隠していたが。


あと、所作は美しかった。

しかし、それだけだ。


なぜ、この娘がローレル殿下の婚約者なのか。

まったく分からなかった。


ウズイカ公爵家としては、当然ブランシュを推していた。

妹は王太子妃に相応しい。

そう信じていた。


仮に妹でなかったとしても、ローズマリー・トスカナ公爵令嬢か、ヴィオレ・イーズ侯爵令嬢。

そう思っていた。


なのに、選ばれたのはメリッサ・バウムだった。

理由が、理解できなかった。


「急に呼び出してすまないな」


ローレル殿下の声で思考が戻る。


「いいえ」


俺は一礼する。


だが――違和感がある。


背筋がざわつく。

何かがおかしい。


視線が、殿下の手元に向く。


石。

ただの石にしか見えない。


だが――。

そこから、妙な圧を感じる。


シトラールも同じ石を取り出した。

だが、こちらははっきりと魔力を感じる。


魅了の無効化。

――そう直感した。


おかしい。

何だ、この感覚は。


心臓が早鐘のように打つ。

呼吸が浅くなる。

思考が、乱れる。


「違和感は感じているようだな」


ローレル殿下が静かに言う。


「シトラール、マレインに魔石を少し渡してくれ」


「はい」


シトラールが歩み寄る。


俺は、無意識に手を差し出していた。


「……っ!!」


石に触れた瞬間。


世界が、反転した。

俺の意識は、そこで途切れた。

読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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