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旅は道連れ世は情け  作者: sigumarun
8/12

第8歩:「……昔にも話したと思うけどな、優しさや気遣いは人に伝染させるべきものじゃ」

 ――カサッ

 それは、草木のざわめきでも、夜風が運ぶ波の音でも、焚き火の優しい炎の音でもなかった。何かが森の奥から浜辺へと近づく微かな草木の音。二人のやり取りを見て笑っているリーズは、その音に気づいた様子は無い。


「アル――」


「大丈夫、私が見てくるよ」


「お願いします。リーズ様は私が見ていますので。無理はせずに」


「ん、オッケー」


 二人の様子に笑っていたリーズの表情が曇る。警戒心を勘づかれたと察したアヤメは彼女へと笑顔を見せて安心させる。


「カウソノマイ、チワツイ、アナ、チヌサーチ、ンマウキ(彼女が、言葉が分からないから私に迷惑をかけそうだって)」


 咄嗟に吐いた嘘だったが、リーズはこれを信じて胸を撫で下ろした。未だ表情が暗いのは気を使わせてしまった罪悪感からだろう。


「行ってくる」


 そんな彼女の頭を撫でたアルタエルは二人に背を向けた。視線の先には大岩が一つ。岩の裏から、焚き火の光とは違う、あるはずのない赤みを帯びた光が微かに漏れている。焚き火を背にしたアルタエルがようやく見えるほどのその微光は、二人の視界には映らなかった。

 アルタエルは出来る限り自然に見えるよう意識しながら一歩ずつ岩へと近付く。周囲の音が彼女の足跡を消しているにも関わらず、彼女が近付くにつれて岩陰の光が不自然に揺れる。岩陰にいる者が気配を感じて体に力が入っているようだ。

 岩陰から飛び出されたらすぐに対応出来るように警戒心を高めてそのまま岩の脇を通り過ぎる。相手の正体をいち早く見ようと首を左に向けた所で……


「あれ、村長?」


「な、なんじゃアルタエルか、良かった……」


「こんなところで――」


 何をしているのかと尋ねようとしたところで、村長の服装が今朝の服装ではない事に気が付いた。おそらくレアから作られたのであろう黒い木製の防具、武器にしては心許ない松明。明らかに散歩の為に海岸へ来た格好ではない。

 アルタエルの視線に気が付いた村長が照れくさそうに握りしめた松明へと視線を移す。


「いやなに、お前達が海岸沿いを歩いているのは何となく察していたのだが、ふと気になって外に出てみたら森からゴブリン達が出てくるのを見てな。きっと大丈夫だろうとは思ったんだが来てしまったんだ」


「あはは、全然大丈夫だったよ。ただ、丁度いいところに来てくれたかも」


「んん? 何かあったのか? そういえばアヤメはどうした?」


「あっちにいるんだけど、見えるかな、もう一人女の子がいるの」


「女の子?」


 村長は岩陰から姿を見せてアヤメの方へと視線を向ける。二人は村長に気が付いておらず、楽しそうに何かを話している。


「ふむ、確かにいる。しかしどこの子じゃ? お前達の知り合いにあんな子がいるとは聞いた事もないぞ」


「アヤメが言うには、東大陸から何かの理由で流されちゃったみたいなの。それでこのままあの子を連れて行くわけにもいかないし、あの子だけでも村で泊めてもらえないかな?」


「そりゃ大変じゃ! 勿論こんな夜に歩かせるより一晩泊っていったら良い。が、何故あの子だけなんだ? お前達も帰ってくれば良いじゃないか」


「え、良いの? だってほら、冒険行くって感じで村出ちゃったのに……」


「なぁにを言っている。怖くなった時でも疲れた時でも、困ったときでもなんにも無くても、好きな日に帰ってくれば良いじゃないか。冒険は野宿をしなくてはいけないものでも無いだろう。ほら、二人がこちらに気が付いたみたいだしあの子に挨拶してこよう」


 村長の姿を遠目に捉えたアヤメは慌てて立ち上がると大きく頭上で手を振った。村長はそれに答えてアヤメへと手を振る。遠目には彼女の表情は見えないが、きっと笑っているのだと彼は感じた。


「……えへへ」


 不意に村長の背後を歩いていたアルタエルが嬉しそうな声を漏らす。村長は不思議そうに後ろを振り返った。


「なんだ、何を笑っている?」


「いや、村長ってやっぱり村長だなって。私達にダメーって言いながら凄い助けてくれるじゃん」


 村長は呆れたようにため息をついた。その表情は落胆している表情ではなく、慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべていた。アルタエルのそばへと近寄り、優しい手つきでその頭を撫でる。


「……昔にも話したと思うけどな、優しさや気遣いは人に伝染させるべきものじゃ。お前やアヤメがわしにそう感じたのなら、お主達もそれを人にしてあげなさい。それはいずれお前達を助ける力になる」


「ん、そうする」


「それはそうと、何故アヤメはずっと手を振っておるんじゃ? 何か叫んでおらんか?」


「へ? あ、あぁ!」


 アヤメが叫んでいる言葉が聞こえたアルタエルは慌てて背を向けた村長の手を掴んだ。


「村長待って! 戻って戻って⁉」


「な、なにを慌てておる?」


「さっき言っていた女の子、実は今服着ていないの! 低体温症になっていたから乾いたタオルで体を包んであげているの!」


「それを先に言わんか馬鹿者!」

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