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高度3 危険な迷い人

 三日後、食料と燃料をスカイバイクに積み込んだ彼女は定期飛行船をスカイポートで待っていた。理由は簡単だ。行きと違い重量と位置関係で自分の島まで完全自走で帰れないのだ。

何故飛行船の本番試験を控えているのに食料を買い込む真似なんてしたのか。それは本番試験が危険だとして中止命令が下った。

 空賊達の活動が頻繁になっており学校側と役所は危険だと判断して一時中断を決定。この決定に喜ぶ者や不満に思う者両方が出たのは言うまでもない。ただメリッサは両方のどちらでもない。ズレ込んでも受かる自信はあるしむしろ暇になった時間をどうやって潰すかで考えていた。


 そんなメリッサはオカルト本を読んでいた。


 鳥は何故飛ぶのか


浮遊石を保有しない鳥は羽を羽ばたかせるだけで飛べる。我々の先祖は羽の形をした布切れや傘を使い羽ばたく等の手法を用いたが何故か飛べなかった。

浮遊石の回収を目的とした気球が開発され簡易的な空島開拓の時期、作業員の一部が鳥の種類が少ないことに気づいた。低い所にしかいない鳥と高い所にいる鳥の差は一体何か?


 空気と鳥が飛べる原理が関係しているのではと囁かれていたが、高山病で人間が苦しむように、単に呼吸が苦しいからの一言で片づけられた。

空中の航行中に風などで進行の妨げになったり等の理由でむしろ飛行の妨害になっている。今日のスカイボートや飛行船は空気抵抗を意識したデザインになっているのもそのためだ。



 そこで読むのを止めた。こういった類の本は適当に科学的な解説と用語を入れているだけで回答はどうせ真実は未知の中で締めくくるのが定番だと思っている。

 メリッサは本を閉じた。

窓の外では、数羽の鳥が飛び去っていく。

「……未知で締めくくられるなら、自分で続きを書くしかないか。」



 スカイポートを乗り継ぎ自分の島の近くまで来た。鳥の飛行原理だけじゃなくこの島も何故同じ場所を正確に移動するのかも不明だ。だがそんな事はどうでも良い、原理が不明でも法則さえ分かれば、それが実を結べば良いのだ。


 安全距離になる時間を腕時計で確認しキックスターターに足をかけた。ふんっ!という掛け声と共にエンジンを回す。時刻は夜になってしまっていた。空島の端には大抵街灯があり加えて誰もが使える離発着場がある。とても明るく開拓された空島と違い自分の空島は真っ暗だ。先の見えない冒険を暗示しているのかと思いきやそれを紛らわすかのようにフロントライトの電源を入れる。そして地面が見えやすいようにフロントライトを気持ち下向きにして離陸した。


 サイドミラーから見える街がどんどん小さくなり音もエンジン音しか聞こえなくなると孤独を感じた。自分はあの暗い島で独りぼっちで夢を目指すのかと思うと気分が落ちる。ジョンは警察官、友人は大学か就職。そして私は・・・


 自己責任、分かってこの道を選んだのに不安に駆られた。夜になると気分が落ち込むのは悪い癖だと思いつつ操縦に集中する。自分の小屋を発見し着陸に移ろうとしたその時違和感を感じる。


 池に光が見える、それも焚火だ。まさか空賊!?


 メリッサは心で叫んだ。

既にライトとエンジン音を響かせ、位置を暴露している。そしてボートと違い速度の遅いバイクだと追いつかれるのは目に見えてる。今更どうしようもない、ならばなるべく速度を上げて相手が動き出す前に状況確認をした方が良い。

 そう判断し焚火の方角に向かって行った。


 どうやら鍋のような物で料理しているようだ、そしてこっちに気づいたのか手を振り始めた。


 もしかしたら空賊じゃない?空賊ならわざわざ手を振る行為をしない。

 メリッサは周回しながらその人物を確認した。しかし夜であることと焚火が逆光になっており人影しか確認できない。下りて確認するしかないと思いメリッサは焚火から少し離れた草地に着陸した。そして光の届かない場所で、静かにエンジンを止める。

 下車するとカバンから電気式のランプを取り出し電源を入れる。非常に便利だ。ローランド工業製のこういった製品はお高いが非常に役に立つ。非常時にいちいちランプに火を付ける暇なんてない。緊急用として購入したのが幸いだ。確か商品名は懐中電灯とかいう物だったか。


 スパナを握り、慎重に一歩ずつ距離を詰めるとその人物の顔が見えた。変わったツナギを着ており一瞬フライトジャケットにも見えた。スカイボートに乗っている人たちが空の寒さから身を守るものだ。空賊は一般的にスカイボートに乗って盗賊行為に走る。メリッサはランプを盾のように向け、そして斧のようにスパナを構えるポーズをして相手の出方を待った。


 「あの~この言葉は通じますか?」

 「え?」


 カバンしか持っていないその人物はどんどん近づいてくる。フライトジャケットのようなツナギは全体的にカーキ色、それでいて布製であちこち油で染みになっていた。そんな汚らしい服と対照的に真っ白な白いマフラーを巻いていた。顔は自分と同じぐらいの歳だろうか髪は黒で目も黒い、どこか普通の人ではない不思議な印象を受けた。


 「すみません・・・三日も食べてないんです。食べ物・・・・分けてください。」

 そんなミステリアスな彼の口から出た言葉は呆気に取られる物だった。



 小屋に明かりが灯る。先ほどのローランド工業の電気式ランプと違い、アルコール燃料を入れて火で照らす方式だ。気分的に暖かい気持ちになる。小屋の中身は板を張り合わせただけの構造でそんなにしっかりとした形式じゃない。飾り気がなく、純粋に雨と風をしのぐだけだ。そんな構造でも台所はあり、その台所には鍋とスープ、そしてパンの準備がされていた。メリッサは男性に警戒心を持ちつつシャワーから出てくるのを待っていた。

 実際は配慮からではなく三日も野宿しているから匂いが気になっただけなのだ。最も彼からは不潔な匂いより油の匂いの方が目立つ。

シャワーの音が止み再びあの油まみれのツナギを着る音が聞こえる。

メリッサはあの汚い服を再び着ようとする気にはなれない。まぁそれは着替えのない彼にとっても同じだろう。


 「いや〜ハッハッハ、死ぬかと思ったよ。シャワー有難うね。」


 軽い口調と足取り、あの不思議なツナギの上半身だけ脱ぎ袖を腰に巻きつけている。おそらく暑いのだろう。上半身はYシャツ下はツナギ。まるで休憩中の整備員のような格好だった。


 「メリッサ・ハインケル。あなたの名前は?」

「ああ、僕の名前はキ…多分発音が難しいからラギで良いよ。」

「ラギ?随分と変わった呼び名。」


我慢出来なかったのか話を遮るかのように瞬時に手を合わせ、そして手をパンの方に伸ばす。手を合わせる行為は恐らくラギの故郷のお祈りの仕方なんだろう。自身も信仰心は深くは無いがマナーとして食事前は祈りを捧げる。

 「神よ食事に感謝します。」

 メリッサは両手を握り祈りの言葉を綴ってから遅れて食事を始める。


 本題に入った。


 「さて、あなた何者?空賊じゃないよね?」

 「うん?…なんて説明しようかな…」


 ラギは悩みながらも食事の手を休めず口に物を進める。本当に腹が減っていたのだろう。


 「この島のルートは外園方面にループしてる島なの。最もこの島のルートには空賊が中継に使えそうな固定島はないし、飛行船も通ってないはずよ。どうやってここに来たの?もしかして3日間っていうのは町で過ごした時間も含めて3日間?」

 「いや、この浮いてる島に不時着して3日間だ。外園って言い方で気になったけど…もしかしてあの壁みたいな雲の事指してる?目測で角度とか確認してみたけど…

 あれかなり外周が長いよね。あれが綺麗に円になってたら500キロぐらいじゃない?」


 メリッサは回答の内容に違和感を感じその違和感をそのまま表情に表した。

小学校でさえ習う内容をまるで推測したかのように、かつ確認をしてきたのだ。メリッサが3日前の講義中のように。


 「まぁそうだけど、かなり真円に近い形だしその距離感はあってるわ。」

 「ほぼ真円なんだアレ・・・」

 「あなた、今小学校で習う内容の会話をしているのよ。さっきも聞いたけど何者なの?」

 数字も読めない無学な人間なら空賊にすらなれない。最低でも地図の読み方を知らないと空中で遭難する。

 「まぁ、いいや。寧ろ真円に近い形で助かった。」

 そう言って新聞紙に近い黄ばんだ紙を出した。一瞬羊皮紙かと思ったが、鉛筆で書き込まれていることから違う素材のようだった。それより鉛筆で書きこまれている内容に驚いていた。

メリッサが直近までいた最寄りの島から別の島まで目測だけで図ったのだろうか。概略的ではあるが、地図が書きこまれていた。

 「すごい・・・自分で描いたの?どうやって距離を測ったの?そこそこズレてるけど合ってるわ」

 

 「ん?基準になる機体から離れて、指を重ねてからの・・・まぁ見え方から概ね計測した。」

 六分儀もないのに大したものだ。メリッサは無人島に遭難する冒険物語を読んだことがあるが、そこに登場する人物のような行動を実際に行った男、ラギに対して畏怖の念を感じた。


 「すごい、私なんか六分儀を使って計測するのに。」

 「いや・・・六分儀を使える方がすごくない?船乗り?」

 「正確には飛行船乗りね。まぁ・・・試験が中止になったから暫く見習いだけど。」

 「中止?どうして?」

 「新聞読んでないの?あ~そっかここで遭難してたのね。念の為聞くけど空賊スカイ パイレーツじゃないよね?」

 「いや、自分はそういう類じゃないよ。」

 「良かった。もし空賊の類だったらあんたの視界真っ赤にする所だった。」


 そう言ってメリッサがゴトっとスパナをテーブルの上に置くと、ラギは視線を逸らす。

 「あ〜うん…あっそうだ!ちと情勢が知りたい、新聞とかある?」


 重くなった空気を誤魔化すというのもあるだろうが、新聞を読みたいのは事実だろう。メリッサは意図を汲み取り皴まみれになった新聞紙を渡す。


 『空賊同士大規模空中戦。ローランド工業の多数の試作品強奪される』

 『試作品の中に新型拳銃も?治安を危ぶむ声。全警察官に拳銃を配備を表明』

 ラギ食い入るように新聞を読む。実際に情報が三日も遮断されていたのだから無理もない。写真の項目に目が留まるとテーブルに新聞紙を置いた。


 「この写真・・・乗り物・・・この島と倉庫・・・メリッサ、ごめん多分この騒動に一枚噛んでるかもしれない。」

 その発言と同時に目の前が真っ赤になり、そして視界が遮られ真っ黒になった。


 「ぎゃああああ!めがぁぁぁ!!めがぁぁぁ!!ポテトに使ってた赤いソースが目にぃぃぃ!!」

 「私の数年の苦労を返さんかいぃぃぃ!」

 ケチャップをかけられたラギは目を抑え痛みに耐えていると股間に一発蹴りをあげると泡を吹いて倒れた。

 「おぉ・・・この辺の女の子は恐ろしい・・・・」

 ラギは呼吸を整えながら地面にうずくまる。視線を仁王立ちしているメリッサに向けると鬼が見えた。心なしか赤い髪の毛が逆立っているようにも見え、より一層怒りが伝わる。

 「いや本当にゴメン・・・だけどアレは事故なんだ。」

 「事故?」


  怪訝そうな顔をしながら彼女はテーブルに再び座る、話を聞く意思はあるようだが先ほどのスパナを握ってスタンバイはしていた。


 「いや、本当に空賊行為は行っていない。ただおそらく空賊相手に空戦はした。向こうから襲ってきたんだ!」

 「外園付近をスカイボートで移動したの!?命知らずにも程があるわ。」

 「そのスカイボートっていうのはよくわからんが。翼のない航空機(Air craft)で向こうから機関銃を撃ってきてな。まぁこっちも別件で空戦中だったから仕方ないけど・・・」


 メリッサは話の流れで奇妙な違和感があった翼という単語の方に意識が向く。(翼のない乗り物)まるで翼がないと空を飛べないかのような言い方をしている。しかも航空機(Air craft)という聞きなれない単語もメリッサの意識を強くさせた。


 「ねぇ…翼がないと飛べないって事?」

 「そういうや…君のオートバイも飛んでたな。どういう原理で飛んでるんだ?」

 「質問に答えて。翼がないと飛べないって認識を持ってるの?あなたの認識では翼がないと飛べないの?あなたは本当にあの壁雲の付近を飛んでたの?」


 メリッサは無意識にスパナを置き、意識を全てラギの回答に注いだ。もしかして長年探し求めていた何かの一端が今目の前にいるのかもしれない。

まるで冒険物語で出てくる宝箱を発見したかのような心境になった。


一言も聞き逃さない。蒼い目でラギを見つめながら意識をする。対象的にメリッサと違い、ラギは目に着いたケチャップを呑気に拭いながらさっきの変わらない口調で口を開いた。


 「あ〜そうだよ。鳥と同じさ。翼がないと飛べない。」

 「鳥と…鳥と同じ…同じ原理で飛んでるの?」

講義室でも、そしてあのオカルト本でも答えのなかった、そして知りたかった事実。




 「え?まぁそうだよ。空気を翼に送り込む原理が機械的かの違いだけで鳥と同じ原理で空を飛んでいる。そもそも僕は君たちが壁雲と呼んでいる雲の向こうから迷い込んできたんだ・・・」





 数百年解明されなかった世紀の大発見を耳にした瞬間だった。





 「すぅうう」

 「え?メリッサさん急に深呼吸してどうしたんですか?」

 ラギは不祥事を起こし急に大人しくなった上官の事を思い出した。こういう時は大抵良くない事が起きるのがお決まりだ。ケチャップの次は何が飛んでくるのか身構えていた。

だが予想外なことに冷蔵庫に向かいワインと生ハムとチーズを持ってきてラギの前に並べられた。さっきまで使っていた使い古された金属製のコップの隣に、高価そうなガラス製のワイングラスをおいてワインを注いだ。

まるで客人をもてなすかのようだった。


 「空を飛ぶ原理・・・詳しく。」

 ラギの説明を待つメリッサはノートを広げスタンバイをした。その表情はまるで遠征から帰ってきた祖父や父親の物語を聞こうとする少年のようだった。









 その頃警察署では昼間のように慌ただしくそして昼間のように明るかった。停泊所のスポットライトは全部点灯し、警察署に併設された病院は、事件後の混乱で慌ただしさを増している。空賊たちの負傷者が次々と運ばれ、廊下には警官と看護師が忙しく行き交っていた。



 「事件の規模や人数に対してこっち側のけが人は少ないな。」

 ドーナツを食べながら暗くなった駐車場や飛行船の停泊場を眺めている。スポットライトで照らされた空賊のボートの残骸と破壊されたパトカーと警察のボートが並べられていた。

 暗い外とは対照的に室内は明るく、窓ガラスに感想を述べた人物が映し出されてた。


 ジョンはここ数日の対応に追われていたがやっとひと段落がついた。「全くだ。」

 ジョンとは対照的に警官の制服ではなく茶色のスーツを着た背が小さく、それでいて恰幅の良い同僚が答えた。

 彼の名前はブラウン。若々しいジョンとは対照的にほうれい線が目立ち、老け顔だ。茶髪で丸い鼻。警察関係者というより、どこかの社長かレストランのオーナーの方が似合っていそうだ。


 「今回は空賊同士が勝手に殴りあっていたからな。今回はあのブラックコークス団と衝突したからな」

 この近辺だと最大級の空賊だ。閉鎖された石炭鉱の工員等が主な構成員で鉱山の労働者が丸ごと空賊になってしまったという経緯もあって規模が大きい。

 当時の知事は自己責任という言葉で捨てたが、人数の規模を考えたら影響が出ることは予想できたはずだ。多少金がかかっても職業訓練や斡旋の場所を与えるべきだったと思っている。

 現に目先の金をケチったせいでその職業訓練や斡旋に使用される税金以上の損害が発生し続けているのだ。保険会社、製造業、郵送、そして警察。空賊の発生のせいであらゆる面でコストが跳ね上がった。


 それでいて空賊の殲滅は物理的にも不可能だ。組合員等が炭鉱に残った膨大な資材を占拠し、要塞化したため下手に手を出せなくなっている。加えてその炭鉱島は石炭を産出できるものだから電気を発電し、市場価格を無視した破格の値段で石炭を販売しているので、ほぼ自立した国家のようになっている。

 何のために閉鎖したのかそもそも閉鎖する必要があったのかと囁かれていた。


 「しかし時刻が妙なんだよ。」

 「どういうことだ?」

 ブラウンはコーヒーを流し込み一息つけ、休憩所にあるテーブルに書類をおいた。


 「この時刻はボートや飛行船が飛べなくなる位置に輸送島が外園にいる時間だ。本来なら空戦が継続できないはずだ。ブラックコークスを襲った襲撃者に残された選択は空母に戻って撤収するか、海の不時着を覚悟して島から離れるしか出来ないはずだ。だが継続して戦っている。」

 ブラウンは地図を広げて墜落危険ゾーンと当時の浮遊型の輸送島の時刻を合わせた。すると丁度危険領域と空戦が行われていた位置が重なっていた。つまり、浮遊石の浮力が発生できない外園エリアで、壁雲付近で空戦を行ったことになる。

 「時刻か浮力を失う危険エリアの位置を読み違えたか・・・とは考えにくいな人数の規模を考えたら・・・」

 「飛行船や蒸気機関車を運用している連中だからな、そんなミスはないと思う。ジョン、お前現場の検証に立ち会ったって聞いたが。」

 「いや、警備だけだ。だが・・・違和感はあったな。」


 違和感、そうだ現場の様子が空賊らしくなかった。


 「それはどういう違和感だ?」

 「新型拳銃が盗まれたとか、他の資材が盗まれたと言っているが、もっと沢山の資材や商品があった。だがその商品は倉庫ごと焼けている。

空賊が金目の物を燃やしたり破壊したりするなんて考えられるか?

いくらライバルチームが金儲けしてたとしても、貴重な弾を使ってまで妨害する気になれん。弾だけでも月収はなくなる。」

 「確かに・・・」

 ブラウンは停泊所におかれている空賊のボートに視線をずらした。ここのボート一艘だけでローンを組まなければいけない値段だ。

 「ああそうだ、ブラックコークスを襲撃した空賊は宗教団体の可能性が高い。」

 「はぁ?宗教団体?」

ジョンは予想外な分析にブラウンを疑った。ブラウンは首を横に振り、俺もそう思ってないとジェスチャーした。

 「いや検死官がそう言ってた。空賊を襲うような宗教団体なんて聞いたことないしな。検察官が何故宗教団と思ったのか謎だが・・・」

 「まぁ情報が揃うまで待とう。あれこれ憶測を立てても仕方ない。」

 ジョンが残りのコーヒーを飲み干そうとした時乾いた音が響いた。


 パァン


 「…銃声?」











 激痛の中、目が覚める。白い天井に清潔感のあるベッドに横たわっていた事に気づく。体を見ると包帯を巻かれていたりなど治療を受けた事が伺える。隣には自分のフライトジャケットが折りたたまれていた。


 「助かったのか?」

 助かったことに対する安堵感と怒りが湧き上がった。そして小さな声で蚊のような声で呪詛を唱えるように呟く。

 「…っサラギの野郎」

 歯軋りするが腐っても仲間だ、彼の憎む相手のことを考えると仕方ないと思った。そうだソイツより恨むべき相手はいる。ソイツと自身と殺し合いをさせた張本人を憎むべきだ。


 変なところで冷静になり怒りからこみ上げた心拍数を深呼吸で抑えた。

 扉が開くと緑の目をした看護婦が驚いた顔でこちらを見ていた。


 「先生を呼んで!患者が意識を取り戻しました!!」


 看護婦とその護衛と思われる警官らが近づいてくる。軍ではなく警官か…堕ちたな俺も


 看護婦の問いかけを聞かずに外を見ると自分の機体がライトに照らされていた。殆ど原型を留めておらず炎上してたのか真っ黒になっていた。


 こんな所で運を使わなくともと思いふけていたら警官が腕を掴んできた。随分と握りやすそうな制服を着ている。どうやら看護婦の問いかけを無視していた事に立腹しているようだ。

腰に目をズラすと回転式の拳銃が見える。見た所新品で使う機会がなかったのだろう。


 非常に好都合だ。










 「どうした!?」

 ジョンとブラウンが銃声のなった部屋に行くと足を撃たれた警官と、それの治療をしている看護婦がいた。

 「ぐ、すみません。患者が訳の分からないことを言いながら襲われました。拳銃が…奪われました。」

 看護婦が止血をしている所を見ると人質を取るような卑劣な事をしない意思を感じる。

 奴は時折空賊がする仇討ちをしに来たのか?

 「ジョン、あいつに近づかない方が良い。距離を取らないと足を掬われる。あいつ格闘技か何かをしているぞ。」

 「分かった。しかし警察病院のど真ん中で…今までこんな空賊見たことないぞ。」


 死刑判決を喰らうような空賊ならまだしも、失業者の集まりのブラックコークス空賊がここまでするとは思えない。それこそ大昔の空賊でもない限り。


 「いたぞ!!ブラックコークス空賊団が入院している棟に向かってる!!」

 別の部署の警官が壁を盾に覗き込んでいると犯人から発砲があった。応戦し倍以上で反撃していた。相手は一人なのに対して警官の数はどんどん増える。


 「あいつを生け捕りにしろ!貴重な情報源だ!」

 「馬鹿言うな!警察署で銃撃つ野郎だぞ!」


 ブラックコークス団の団員らはあいつ傭兵か殺し屋かと言いながら、狙われているにも関わらず病室のドアから顔を出して野次馬の一員になっていた。


 ブラックコークス団を見た瞬間、撃たれるのが怖くないのか犯人はそのまま飛び出し、ブラックコークス団の病室に駆け出した。一瞬の出来事だったので警官たちのそしてジョンの反応が遅れた。だが一人の警官が一発彼の胴体に撃ちこむ。


 「ひいい!」

 とても空賊とは思えない悲鳴を上げて病室に逃げ込んだ。

 「犯人確保!手術室に連れていけ!!内線だ!内線を繋げ!」


 あとは医者の仕事だ、その様子を眺めながらブラウンは軽口を叩いた。

 「ジョン、やっぱ俺検察官の言ってたこと信じようかと思う。コイツは異常者だ。」

 「ああ、同感だ。」



 銃声は止んだ。だが、署と病院の空気はまだ震えていた。ジョンとブラウンは、沈黙の中に明るい次の音を探していた。


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