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高度2現実とその突破口

 レンガ造りのキャンパスは非常に大きく、構内にカフェもある規模だった。着飾った大学生らがカフェでケーキや飲み物を食べながら就活リストのプリントを眺めている。


 そんなゆったりした中庭の様子と対照的に重苦しい雰囲気を出している講義室。


 この学園は大学だけではなく、高等学校や中等学校、そして専門学校も併設されている。その中に飛行船の資格をとる航空学校が存在していた。その生徒の一員であるメリッサはいままでのまとめの講義を聞いていた。


 破天荒な行動とは裏腹にメリッサは成績上位で何もなければ合格は間違いないだろう。おそらく次の大型飛行船の試験に合格し、どこかの遊覧飛行船か輸送飛行船に就職出来る。だが彼女はそれが理由で学園から目をつけられている訳ではない。その破天荒な行動が故に学校も目をつけられていた。


 そんな生徒を迎えている講義室で講師が講義している。

 白髪で髭だけが黒い講師が黒板に図解を描き始めた。メリッサはコンパスや図面を書くことはできても、解説用のイラストを描くのは子供レベルなのでこの講師の描くスキルは正直羨ましいと思っている。


 「さて、ここまで残った飛行船の見習い諸君。君たちは本当に基礎知識を持っているのかもう一度確認する。

 それと同時に歴史の振り返りだ。ただ基礎知識を確認するだけだと面白くないからな。


 産業革命時に浮遊石という鉱物が発見されてから人類は今の私たちのように空島に生存圏を広げた。浮遊石のおかげで飛行船やスカイボートが開発された。最近だと車やバイクに搭載しているタイプもあるが・・・」


 バツが悪そうに目をそらすメリッサ。実は速度違反で幼馴染の警官ジョンに怒られ学校まで送られたのだ。講師の耳にも当然入っている、だが講師はちらりとメリッサに目をやったが、何も言わず黒板に向き直った。おそらく叱咤をするつもりはないのだろう。本番の試験が近いのだ。この事を不問にしてくれる講師にメリッサはホッとした。




 「まぁ、おまけ機能だから速度は出ないな。うん・・・さて浮遊石を使った物は色んな産業で使われているが、それが通用しない箇所がある。さて冒険家志望のメリッサ・ハインケルそのエリアはどこかな?」


 悪気はないのだろう、この講師は不意にそしてご丁寧にメリッサの飛行船免許取得の理由を説明してしまった。少し恥ずかしさを感じながらも成績上位らしく説明する。

 「壁雲は通常の雲と違い、近づくと浮力を失い墜落させる特異な能力があります。原理は不明です。そのため『外園』を航行する際必ず一定の距離を保つ事が推奨されてます。」


 「素晴らしい!!模範解答をありがとう。君たちの配属される飛行船によっては外園エリアを航行する者もいるかもしれん。だからしっかりと意識するんだぞ。特にメリッサ君のような成績上位者は外園の飛行船に配備される可能性が高い。」


 そう、『外園』は壁雲の縁の事を指す。そこは飛行船乗りにとっては危険地帯になっている、そして船乗りにとってもだ。

奇妙なことにその雲に沿って海上は浅瀬になっている。外洋向けの海上用大型船舶でさえ近づくのが難しく、飛行船だけの壁ではなかった。壁雲は空の境界線、いや世界の境界線。



 「先生は・・・・もし先生ならどうやって壁雲を抜けますか?」

 分かりきってはいたが、メリッサは壁雲を抜ける方法に興味本位で、いや正確に言えば期待はしてないけど本気で聞いた。


 「ん〜渡り鳥が壁雲から来ているから、まぁオーソドックスに空から行く以外の方法はないだろうね。何度も海上ルートは失敗しているし。結局壁雲が浮遊石の効果を無効化する原理を追求するか…だね。浮遊石を保有してない鳥がなぜ空を飛ぶのかを究明するのと同じぐらい難しい課題だよ。

壁雲の原理を解明するのが先か鳥が空を飛ぶ原理を解明するのが先か…

まぁ、技術進歩を待つしかないな。」


 分かりきっていた回答だ。だが聞かずにはいられなかった。なんせもうこの講師と会って話せるのは今回と次の本番の試験の時だけなのだから。


 授業の終了を知らせるチャイムが講義室に響く。メリッサは遠い目をしながら憂鬱になった。漠然とした焦燥感と同時に明確な試練が待ち受けているからだ。

 講義室を出る前にチラリと窓から外の様子を見る。


 水色と白のツートーンカラーに警察のマークの付いたパトカー、そこで特徴的なピケ帽子と制服を着た幼馴染が腕を組んで待っていた。腰ベルトについている明るい色の警棒が、彼が警察官である事を強調していた。幼馴染は大分待ったのかパトカーにもたれかかって指をトントンと上腕二頭筋を叩いている。


 あれは説教コース第二ラウンドを控えてると確信した。メリッサは仕方ないかと腹を括り階段を降りていく。


 

 「メリッサ」


 ピケ帽子の鍔が上がるとメリッサと同じぐらい碧い目がメリッサの方に向く。ただメリッサと違うのは金髪な所だ。ジョン・フェアファックス。警察官の幼馴染だ。


「さて、署で預かっているスカイバイクを回収してもらうか。」

メリッサを視認するや否やエンジンをかける。ジョンはバイクの浮力だけでよくあんな速度出そうと思うなと呟きながら空に車を浮かせた。

「メリッサ、時期を考えてくれ。」

「ごめん」

「まぁ本番が近いから特に言わない。バイクを受領したら学校の寮に真っ直ぐ帰るんだ。」

「あれ?警察署で説教じゃないの?」

「ん?受けたいのか?」


 堅物のジョンがあっさり返すとは思えない、つまり事件が発生したのだろう。

 「外園付近で空賊同士の大規模な空中戦があったらしい。こないだ買ったお前の島、固定タイプじゃなく遊泳タイプだろ?」


 空島には二種類ある。座標が固定されている島と、決まったコースを移動する島。メリッサは外園に移動するこの島を丁度よいとして購入したのだ。

「空賊には気をつけろよ。あと島の登録されてなかった。交通省だけしか出してないだろ・・・警察にも島の移動経路のデータを提出してくれ。」

「前から思ったんだけど、何で警察は交通省からもらえないの?複写するのって結構手間がかかるのよ。」

「さぁな、偉いさん同士仲が悪いんだろうさ。でも提出して損はないぞ。何かあったときすぐ駆け付けることができる。」


 自分より少ししか歳が違わないのに随分と大人びた印象を持つ。学生時代のジョンは生徒会でこういう所をドンドン改革していくタイプの人間だった。そんなジョンでも大人の世界のゴタゴタは解決できないんだろう。


 警察署に到着するとメリッサは複写した地図の移動データを渡した。運転中に渡したりすると安全運転ができないと言って非常に嫌がるからだ。ジョンはその地図データをさっと読み上げた。


 「あと三日後にバイクでいける距離まで近づくのか・・・すまないが三日後自分で帰ってくれ。」

 「そんなに大規模な事件?」

 「ああ、大規模だ。ローランド工業って知っているか?」


 ローランド工業、知らない人間はいない。大きな会社で飛行船から車まで作っている財閥企業だ。

 「それぐらい知ってるわよ。」

 「そこの輸送船と輸送用の浮遊島が襲撃を受けた。」

 「それはちょくちょくニュースで聞くわよ。珍しいとも思わないわ。」


 「それが、試作品の銃を運んでいたんだよ。どうやらすごく革新的な拳銃らしい。大方盗んだ後工場に強請るつもりだったんだろうな。どっちにしろ厳戒態勢だ。まぁメリッサの島と現場の位置情報からして結構離れているから・・・大丈夫ではあるが・・・何かあったら緊急無線を入れろよ。」


 そう言いながら二人は署内に入っていく。署は最近作られたコンクリート式でレンガで作られた街並みと違う趣を感じる。警察が所有する飛行船もあり警察署というより空港スカイポートのイメージを持った。

 そして駐車場には違反札の貼られた自分のスカイバイクが駐車されている。メリッサのバイクだ。周りにも同じく押収されたであろう車両やスカイボートが並んでいたが、改造された物ばかりでその中に自分の愛車が混じっていることに恥ずかしさを感じた。

 「ここにサインを」

  忙しいのかジョンの仕事に戻りたい雰囲気を察したメリッサはささっとサインをした。そして女性が乗るとは思えない無骨なデザインのスカイバイクに跨りエンジンを始動させる。

「帰りは安全運転で行く。」

 ポニーテールの束を揺らしながらジョンの方に振り向き歯を見せながら悪戯っぽく口角を上げる。ゴーグルから見える目も含めてそこまで反省していないようにも見えた。

「おう。」

全くと心の中で呟き上昇していくメリッサを眺める。そして行きとは違いゆっくりと上り船のようにゆったりと前進していった。そして見えなくなるまでジョンはメリッサの事を眺めていた。


 「・・・ここ空中航行禁止区域だぞ」

 呆れながらジョンは空の彼方に行ったメリッサに対してボソリと呟いた。


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