高度1 空に飛びたい気持ち
草原が広がり、晴天の空。黄緑の地面と青いコントラストの土地にポツンと立つ人影。
服装は青いツナギを着用し薄い茶色のハントキャップを被っていた。首には色付きのゴーグルをぶら下げており腰には工具をぶら下げるベルトも装着していた。
髪は燃えるように真っ赤で目は空のように青い。髪型がポニーテールでなければ誰も彼女を女性として認識できないだろう。
彼女には壮大な夢があった。この広場を手に入れたのもその夢の一環だった。彼女が手を腰にかけて感慨にふけてると彼女の周りが暗くなる。
雲か?その可能性もある、しかし今回の影は輪郭がはっきりしているので雲ではなかった。
大きな葉巻の形をした飛行船が彼女の所有する平原を通り過ぎていたのだ。そしてその飛行船は高度を下げながら平原の下まで下りた。
「あの定期船が来たって事は・・・ヤバイ遅刻しちゃう!」彼女はそう言って駆け足で変わった形のバイクに乗る。
そのバイクは鉄製の縦長のパレットにハンドルと椅子を適当に繋げただけのように見える不思議な構造をしていた。同乗者、あるいは荷物を落下させないための頑丈な手摺で囲ってなければ貨物用の三輪バイクとして認識されなかっただろう。
「エンジンスタート!」
ゴーグルを装着した彼女はそう言って茶色の頑丈そうな革靴で蹴り下げる。キックスターターでついたであろう傷は後から普段からこのバイクに乗っている事がうかがえる。
エンジンがかかるとレバーを動かしギアを入れた。するとそのバイクは浮き上がった。
よく見れば草原にはバイクの轍がなかった。そう、このバイクは飛んでこの場所に来たのだ。高度をあげると木造の大きな小屋が見える。この小屋は彼女の家になる予定でもある。さらにさらに高度を上げる。これは意味もなく高度を上げてるのではない、位置エネルギーを確保するためだ。
そして彼女の望む高度・・・つまり必要とする位置エネルギーの位置に達した「よし高さは十分。あとは落ちて加速するだけ!」
瞬間に浮遊に使ってたギアを思いっきり下げる、すると彼女のバイクは浮力を失い墜落のように落ちたのだ。
彼女のバイクの計器にYの文字が点滅し0を示している。ビィィというブザー音が鳴り響いている事からこれが警告音で正規の操縦方法でないことが分かる。
Y計器が0を示しているのと対照的に隣のXと表記されている計器はMAX値を示していた。
彼女は思い切りアクセルペダルを踏む。トルクが上がりエンジンが唸り声を上げる。まるで無茶をさせるなと怒っているようでもあった。すると前に勢いよく進み、位置エネルギーと合わさって速度計が振り切れるほどの加速で、前へ突き進んだ。
Yは高度を上げるための出力。Xは空中で前に進むための出力を表している。
この車両はXとYの出力を両方合わせて安全に飛ぶ事を想定しているのだ。だから速度計は計測不能になった、だが彼女はそんな事を気にも留めない。そんな事より遅刻の方がずっと困るのだ。そしてこんな飛び方をできるのは彼女が一般人ではなく、この機械と空に関して知識を持ち合わせているからこそ出来る芸当。
草原の上空で爆音を響かせながら弾丸のように空を突き抜けた。
草原の向こう側は崖だった。しかし崖の下には地面はない。代わりにあったのは海だった。そして雲と空に浮かぶ島々の光景が広がる。
「よぉぉぉぉし!!」
島々と雲、飛行船。その光景の一部になるかのようにその中を走っていった。
彼女の名前は___メリッサ・ハインケル。
空の旅人を目指し、空を駆ける少女だった。
誤字脱字があったら教えてください
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