初心者殺し
「3階に来ることになるとはな……」
あの後もモンスターを探したが、既に戦闘中や倒された後で全く遭遇する事はなかった。
仕方なく、3階層に来たのだがここも人が多い。
戦闘に手慣れた者や、俺と同じようにモンスターを求めて降りて来た初心者がいるようだ。
3階層では1、2階層では出現しなかったコボルドが敵として出てくるようになる。
そのコボルドだが初心者殺しで有名だ。
動物を2足歩行にしたようなモンスターだが、その見た目が凶悪。
幼稚園児程のサイズにつぶらな瞳。
庇護欲を唆るルックスに幾人もの人々が攻撃も出来ず襲われるという。
噂では仲間を助けるため攻撃をしたとある剣士が、仲間達から批判されパーティーが解散したとも。
倒すためには機械的に殺す事が求められる。
物理だけではなく精神的に追い詰めてくる恐ろしいモンスターなのだ。
現に、少し離れた場所で戦っている人なんて一方的に攻撃を受けている。
「今度こそ攻撃を……や、やめて!!つぶらな瞳で私を見ないで!!!攻撃出来なくなるからぁああ!!!!」
躊躇し続けているが、その身体に怪我は殆どない。
実は素早さや身軽さが特徴のモンスターだが、攻撃力は高くはなく。
角に小指をぶつけた程度の痛みを感じるのみ。
流石に受け続けると死に至るが、早々そんな事にはならない。
助太刀なり、逃げ出すなり、倒す等でコボルドによる死者は今の所いない。
その程度の変化で降りて来るのを躊躇するほど動物が好きではないが、俺が3階へと降りるのを躊躇した理由がある。
「問題はモンスターの数だよな」
一番の変化。
1、2階では多くても2匹までだったモンスターが、3階からは2匹での遭遇が当たり前。
多い時は5匹と遭遇することも。
なるべく安全に探索したい俺としては、もう少し手慣れてから来る予定だった。
が、人が多い事により1匹だけと戦う事も可能となり比較的安全に戦う事が出来る。
「ゴブリンの予定だったけど、コボルドに変更するか。危険度に比べて利益率高いしな」
可愛い見た目に躊躇してしまう人が多いせいで、ゴブリンよりも弱いにも関わらず高く買い取って貰えるのだ。
俺は孤立しているコボルドに目を付け、気付かれないように背後から接近。
足音に気付いたコボルドが振り向き、つぶらな瞳で見詰めてくる。
が、もう遅い。
既に降り終えた剣がコボルドの首を両断。
血飛沫を撒き散らしながら崩れ落ちるコボルド。
その身はスライムと同じ様に空気中に溶け、最後に残ったのは魔石と小さな毛皮のみ。
「これは確かに躊躇するな……」