イレギュラー
ふっかーーーーーつッ!!(約半年ぶり)
久しぶりに書くと色々わすれますねー。
辿りついたボス部屋。俺たちを待ち構えていたのは――ボスの死骸だった。
「うそ……でしょ……」
ゆうの震えた声。
全員の視線が一点に集中する。ボスの死骸―――などではない。そこに立つ、一体の異形に。
ひさしが押し殺した声でいう。
「クソッ!! どうしてここにゴブリンファイターがいるんだよ……!!」
――ゴブリンファイター。
ゴブリンやチビゴブリンの上位種。役職持ちと言われるゴブリンの一種だ。その特徴は言わずもがな、鍛え上げられた肉体。
筋肉が浮き出るほどに引き締まった肉体から繰り出される一撃は、頑強な大楯をも砕くという。
本来30階層以降に出現する魔物が、こんな浅瀬にいる異常。その特徴をもつ存在を俺は知っている。
「―――イレギュラー……!」
本来の階層を飛び出し動き回る魔物たちの総称。
その強さは通常種を上回り、特殊な力を持つ個体もいるという。並の冒険者が勝てるような相手ではない。
気圧される俺たちの前で、ゴブリンスライダーの死骸が溶け消えてアイテムへと変わる。
その光景を眺めていたゴブリンファイターは、興味を失ったように俺たちへと視線を向ける。
「ッ!!」
勝てない。
目を合わせただけ、たったそれだけで、彼我の差を突きつけられる。
誰かの喉がゴクリと鳴り、その音がわずかに現実へと戻す。
頭のなかでは常に逃げる方法を模索するが、今の実力ではなにをやっても焼石に水。目を逸らすこともできない。逸らした瞬間に殺されるかも知れない。
そんな思いが常に心を占める。一向に変化のない硬直状態。の変わってほしいとも変わらないでほしいとも願う、相反する気持ち。
冷たい汗が頬を伝い、顎まで流れ、地面へと落ちる。
「―――逃げるぞ!!」
ひさしの叫ぶ声。危険だとか怖いだとか考える猶予も与えず、本能が“その声に従え”と指示を下す。
後ろを振り返り、先をゆくひさしの後を追いかける。ペースを考えない走り、息が切れ、呼気は荒くなる。それでもなお、その足を止めることはない。
少しでも遠くに、追いかけてこれない距離まで。
ただその一心で走るのだ。
あとになってみれば、この時の俺は本能に支配された“獣”だったのだろう。
だがそのおかげで、無事に逃げ切ることに成功した。幸い、誰も欠けることもなく、また追いかけてくる様子もなく、俺たちは五体満足で生還を果たした。
とはいっても、まだここはダンジョンの中。いつ魔物が襲ってきてもおかしくはない。油断できない状況ではあるが、少しばかり休んでも大丈夫だろう。
壁に寄りかかるようにして座り込む。大の字で寝そべったひさしが、「みんな無事かー?」と掠れた声で聞く。
「なんとか、ね」
「無事じゃなかったら声もだせないよ」
「お陰でなんとか」
各々の返しにひさしは楽しげに笑うと、小さく「ごめんな」と申し訳なさげな声で謝る。
視線をむけた頃にはすでにいつもの表情で「喉渇いた〜」といって、持参した水筒に口をつけてゴクゴクと飲んでいた。
負い目を感じているんだろうな。
自分がいたから、自分がいなければあんなことには。きっと、そんなことを思っているのだろう。
そんなことはないのに。
たしかに運は悪かった。イレギュラーに遭遇するなんて普通に考えればあり得ない。
それこそ何万分の一とかの確率だろう。
だが、そこから五体満足に、全員無事で生還できるのはいったいどれぐらいの確率だろうか。正確なことはわからないが、遭遇するよりも低いことだけは確かだ。
逆なんだよ。俺たちは運が良かった。ひさしが居て良かった。じゃなきゃ死んでたんだ。
今すぐにでもそう言ってやりたいが、こんな状況でそんなやり取りをしている余裕はない。口惜しくはあるが、言葉をグッと飲みこむ。
チラリとゆうとゆうじに視線を向ければ、2人とも苦しげに顔を歪めていた。
どうやら思うことは同じらしい。
こんな状況にも関わらず、クスリと笑ってしまう。
わかりやすく言えばレイドボス。元となる魔物にもよるけど、並の冒険者が勝てる相手ではないです。
上級の冒険者か、徒党を組んだ冒険者で倒せるレベル(予定では)。1パーティがかなう相手ではないです。
もうちょっとだけ補足すると、階層を移動してくれてるだけまだマシな分類。元の階層に居座ってる方がたちが悪い。同じ魔物だと思ったらイレギュラーでした!ってなるほうが恐ろしいじゃん。天然の罠よ、罠。




