ゆうじ、恐ろしい子……!
結論から言えば、祈りは通じなかった。
例えばだ、ひさしの案内に従って角を曲がったとする。
ふつう、気配の一切ないそこに魔物がいるはずなんてないのに、なんの不幸か、魔物がポップした瞬間に立ち会う。そうなれば当然襲われるわけで……。
「いっつもこうなんだから! 先頭はあたしが行くっていつも言ってるでしょ!? どうして突っ走ったの!?」
「ごめんなさい。新メンバーに浮かれてました」
すっごい縮こまった正座で説教されるリーダーの図が出来上がった。
もちろん、魔物は倒している。倒してなきゃ説教なんてできない。仁王立ちで立つゆうは半信半疑といった眼差しだ。
「これで何度目か覚えてる?」
「えっと………3回目?」
「あん?」
「違うんですね、はい」
意気消沈といった感じだ。可哀想なぐらい縮こまった姿に、止めた方がいいかと思ったタイミングで、横合いからポンポンと肩を叩かれる。
そちらに振り向けば、ゆうじがいた。
「行こう」
「良いのか?」
俺の言葉に、ゆうじは首を横に振る。
「ああなったゆうは止まらない。反省させるまで説教が続くんだ」
「いや、さすがに……」
「巻き込まれたいの?」
俺はその一言に黙った。
好き好んで説教される趣味はない。ひさしが悪い。俺は悪くない。よし、これで大丈夫。
「じゃあ、行こうか」
「うん。とはいっても、少し散歩するぐらいだけどね」
10分を目処に戻ると決めて、ゆうじの後に続いて歩き始める。今いる階層は2階。相も変わらず人が多く、魔物が少ない階層だ。必然的に魔物となかなか出会わないのに、どうすればポップする瞬間に遭遇するというのか。
「驚いたでしょ?」
「驚いたに決まってる。ふつう、あんな場面に遭遇すると思わないからな?」
「ははっ、だろうね。僕も同じだったよ」
そういってゆうじは懐かしげに瞳を細める。
ただそれは一瞬のこと、パッと切り替えるように愉しげな笑みを浮かべた。
「ここまで離れれば大丈夫かな」
「どういう意味だ」
意味深な発言が気になり、俺は腰に佩く剣の柄を掴む。
先日のことがあったばかりだ。人が近くにいる状況とはいえ、警戒して損はない。
そんな俺にゆうじはそっと顔を近づけて、囁くように言う。
「ここだけの話、ゆうはひさしの事が好きなんだ」
「は?」
想定外の発言に俺は間の抜けた声を漏らす。
突拍子もない話をされたら誰だってそうなる。意味深な発言から、こんな話に繋がるとはふつう思わない。
呆然とゆうじを見る俺の視線をどう捉えたのか、ゆうじは笑いながら続きを話す。
「あんなにプリプリ怒ってるのに、内心だと『そういうところが好き!』って言ってるんだよ? 可笑しいと思わない?」
「え、あ、そ、そうなのか……?」
いわゆるツンデレってやつなのだろうか。
先程のことを思い出し、妙にしっくりくる。
「いや待て。どうして分かるんだよ。読心術でも修めているのか?」
「いや。ただ前に聞き出しただけ。少し酔わせて聞いただけだよ?」
思わず半目となってしまう。
他所様のあれやこれやに口を出すつもりはないが、それはどうかと思う。
「あんまり人の恋路に手を出さないほうが良いぞ? 後ろから刺されても知らないからな?」
「刺されるとしたら正面からでしょ。ゆうの性格的に」
「あー、確かに」
妙に納得した。
ゆうじは楽しげにケラケラと笑うと、スッと真面目な表情に切り替わる。
「ゆうのこと、嫌わないでほしいんだ」
俺は目をまばたく。
「急にどうしたんだよ」
「ぅん。ほら、ゆうって見たとおり強気な性格でしょ? だから人に嫌われやすいんだ。あんな性格だけど、繊細な子だから傷つきやすいんだ」
「だから、嫌わないでほしい、か」
「うん、そういうこと。無理にとは言わないよ。相性は人それぞれだし。だから、これはお願い。今日だけでも、そんな素振りは見せないで欲しいんだ」
「ひさしは良いのかよ」
あの運の悪さはゆうよりも嫌われそうなんだが?
そんな意味で聞いた言葉に、ゆうじは笑う。
「それこそ、だよ。ひさしは嫌われた程度でへこたれないし、笑って突っ切るタイプだからね」
「うん、納得感しかないな」
深く頷く。
「それで、どうなのかな?」
俺は手で頭を掻く。
「別に嫌ってなんかない。まぁ、強気な、てか、勝ち気な性格だとは思った。だが、それで嫌になるほど浅慮なつもりはないからな?」
それでいったら会社の上司とかの方が嫌いだ。
急な仕事入ったから後はよろしくと、定時直前に押し付けていなくなったあの野郎。今でも思い出すたびに怒りが湧く。
「ふぅん。なら良いよ。そろそろ落ち着いてるだろうし、戻ろう」
そういってゆうじは、元来た道を戻り始めた。
なんともあっさりとした返事だ。この答えが満足かどうかも教えてくれない。
ただ、合格はもらえたと受け取って良いだろう。そうでなければ「良い」なんて言わなかっただろうから。
俺は背を追いかけながら、気になったことを聞いてみた。
「なあ、もし嫌いだって答えていたらどうなっていたんだ?」
その質問に、足を止めることなく答えが返される。
「別になにも。ただ、パーティーは今日限りになっていただけだよ」
作者のなかで、ゆうじのキャラ像が腹黒ショタとなりました。理由は分かりません。




