新メンバー
たぶん、今後一生登場しないアプリの説明。
『バディッド』と名付けれたそのアプリは、万超えの利用者がいるマッチングアプリだ。
利用料はひと月2500円ほど。年間契約だと少しの割引がある。
ユーザーからの評価もよく、『気の合う仲間を見つけられました!』『払うだけの価値あり』などなど、高評価の感想が寄せられている。
アプリを開けば最新の募集が表示される仕組みとなっており、その募集タイトルには『剣士募集!』『1人離脱したので仲間募集!』『誰か俺とパーティー組んで…』と、個性のあるタイトルが並ぶ。
試しに1つクリックすれば募集要項が表示され、剣士や魔法使いといったタイプから始まり、活動時間帯、攻略階層など、具体的な希望が書かれている。
ただそれは基本の部分であり、それ以外にも希望年齢や性格など、細かい要項も設定できる。
俺はそのいくつかの募集に目を通し、1つの募集にお試しとして応募した。
それが2日前、いま俺がいるのは東京都内にあるダンジョン 前にいる。あの事件に遭遇したダンジョンだ。正直、違う場所を選べたら良かったのだが、そうなると遠くなるし、その費用も高くなるしでデメリットしかないためここを選んだ。
――というより、ここで活動しているパーティーを選んだ、という方が正しいか。
待ち合わせの場所として指定された塔の前に立ち、見上げる。スカイツリーを小さくしたような白い塔、真新しさを感じるこの塔は慰霊碑だ。ダンジョンで亡くなった者の霊を鎮めるために建てられた。
本来、安易に立ち寄って良いところではないが、目印として目立つため、集合場所としてよく利用されている。
ふつう、厳かな感じを抱くはずなんだけどな……。
周囲を見回せば楽しげに話す若者の姿がそこかしこに。端的にいってガヤガヤだ。どこからか「おーーい」なんて声まで聞こえてくる。ここはハチ公前じゃないんだぞ。
偏見かも知れないが、そんな言葉が出てくるぐらいには雰囲気が場にそぐわない。
一応、塔の外周には柵が敷かれてあり、他とは区切られている。さすがにその中に入って待つような者はいない。いないんだよ、普通。
「間違えた? ゆうじ、顔写真と合ってるよね?」
「合っているよ。向こうが気づいていないだけだと思う」
「やっぱりそっかー。ゆう、頼むわ」
「はあ!? なんで私が!!」
「いや、可愛い子なら反応してくれるかなって」
「ああん?」
「……うっす。俺がやります」
あろうことか内側に入るばかりか、食事までし始める輩にいろいろ通り越して呆れる俺の耳に、先程からずっと聞こえる会話。それが気になり顔を向ける。
「あっ」
どちらから漏れでた声だったのか。
ちょうど振り向いたタイミングで俺は男と目があった。そして既視感を感じた。目の前に立つ男の顔をどこかで、もっといえば『バディッド』で見た覚えがあった。
たしか、この顔は――。
「あ~~、初めまして。俺、ユナヒロのリーダーしてます、檀炉ひさしです」
「あ、ああ、俺、紳二郎嘘松と申します。もしかして、先程から声かけてました?」
「まぁ、はい……」
2人の間になんとも言えない空気が漂う。
お互い、顔を合わせてるのだが、たぶん、どちらとも筆舌にしがたい微妙な表情を浮かべてる。
この気まずい空気をどうしようかと思ったタイミングで、パンパンと2度、手を叩く音がした。
「はいはい。この空気おしまいよ。次はあたしの番。夕陽ゆう、紳二郎さんだっけ? よろしく」
「よろしく」
差し出された手を反射的に握り返して返事を返せば、彼女は握った手を手解いて後ろにいる、もう1人の仲間に声をかける。
「ゆうじ、あんたも挨拶しなさい」
「言われなくても。僕は南雲ゆうじ。短い間だろうけど、よろしく」
こちらも握手を求められたらため応じる。
「さてと、挨拶も終わったし、さっそく行きますか」
「いやいや、早くないか? 具体的に何をするとか、どこまで潜るとか説明しないのか?」
「うーーん。必要なことは募集に書いたし、今日はそこまで潜らないで良いかなって」
「適当だなぁ」
思わずパーティーメンバーの2人に目を向けるが、どちらも呆れたため息を吐くだけ。反論する気はないようだ。
「うちのリーダー、いつもこんな感じだから気にしないで」
「信じろってのはすぐには無理だろうけど、危険に晒そうとかしてる訳じゃないのは信じて欲しい」
なんのフォローをされてるんだろうか。とくに2つ目。
危険に晒らされるのか? 今から?
咄嗟にリーダーであるひさしの方を見るが、陽気に鼻歌を歌いながらこちらに背を向けているため、顔をうかがい知ることができない。
改めて2人を見るが、なにも知らないとばかりにさっさとひさしの方に着いて行く。これで残ったのは俺だけ。
本当に大丈夫なんだよ……な?
不安はある。不安は大いにあるが、来た以上は行くしかない。
何事もないことを祈りながら3人の背を追いかける。
この後どうしよう。なんも考えてないや。




