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現代ダンジョン冒険譚  作者: 冬空
ソロ編
21/31

それでも俺は

ここでソロ編終わり。想定外の結末になりました。色々想定していたんですけど、範囲外の結末でした。

「まず、一番気にしていた空也さんの遺体だが。こちらは無事、親御さんの元に届けられた。とても感謝していたそうだよ」

「そうか」


口から出たのはたったそれだけ。

けれど、胸中を満たすのは安堵と罪悪感。

助けられなくてごめんなさい、無事に届けられて良かったと、そんな言葉がいくつも渦巻く。

俺はそれらを吐く息に合わせて外へと放出する。


「続きを頼む」

「わかった。次に犯人の殺害だが、これは罪に問われない。無罪だ」


俺は思わず目を見開く。


「良いのか? 人を殺したんだぞ?」

「なにがあっても自己責任。それがダンジョンだ。警察官からも逮捕はしないと言質をもらった。逆に、犯罪者が減って感謝していたよ」

「そう、なのか」


これは素直に喜べなかった。

もちろん、安堵はしている。自衛の結果だとしても、殺人は重い罪だ。過剰防衛として、前科がつく可能性があったのだ。

そうなると色々と人生が生きづらくなる。

そうはならなくて良かったと思うと同時、罪は罪だ。前科としてつかなくとも、己のなかに刻まれたその罪は一生消えることはないだろう。


「気に病むな、といっても無理か」

「まぁ、な」

「辛くなった時はこの人に連絡すると良い」


そういって佐上が差し出してきたのは1枚の名刺。

受け取って確認すると、そこには『ダンジョン課所属 岩渡(いわたり)』と、そう書いてあった。


「これは」

「警察の人だ。さきほど出てきた警察官だよ。今回の件を対応している」


この人が対応してくれているのか。

下の方に目を動かせば、確かに、電話番号が載っていた。

俺は顔を上げて礼を伝える。


「ありがとう。その時になったら連絡してみる」

「そうしてくれ。なにか聞きたいことはあるか?」

「いや、特にはないな。今はゆっくりとしていたい」


だいぶ落ち着いてきたとはいえ、まだまだ本調子とは言い難い。

これは体ではなく心の問題だ。

体はポーションで元通り、何事もなく動ける。だけど、ポーションで癒やせるのは体まで、心までは癒せなない。今は、その時間がほしかった。


「冒険者を辞めるのなら今だぞ」


ふと、佐上が言った。真剣な表情だ。ふざけて言った感じではない。


「どうしたんだよ急に」

「ダンジョンに長くいると人の死なんてよく見る光景なんだ。そんな光景をまえに、折れていく姿を何度も見てきた。今の紳二郎さんはその人たちと似てる。迷っているんだろう? 冒険者を続けるかどうか」

「………」


図星だった。

たしかに、俺は迷っていた。事件に巻き込まれて人を殺してしまった。救えなかった命もある。

正直、ダンジョンに行くのが恐ろしかった。

またあんな事件に遭うかもしれない、また人を殺してしまうかもしれない、また救えないかもしれない、そう怖じ気づいてしまう。

なら、離れてしまえば良い。前のように会社に就職して、仕事して、ごく当たり前の日常に戻れば良い。

わかっている。わかっているけど、それでもーー夢だったんだ。

昔読んだマンガがある。うだつの上がらない冒険者が、ふとしたことを切っ掛けにダンジョンの深部を目指す、そんなありきたりな話だ。

ただ当時は珍しくて、夢中になって読んだのを覚えている。

こんな世界があるんだ、ダンジョンに潜ってみたい、そんな子供らしい夢を抱いた。

叶うはずもないそんな淡い夢が現実になったのが約5年前だ。

地鳴りとともに地上に現れたいくつもの建造物。後にダンジョンと呼ばれるそれらは、当時の人々に混乱と興奮を齎した。俺もその一人だ。

夢の光景が現実に、手が届く距離にある。

あの時の興奮は今でも忘れられない。それがこんなにも遅くなって、叶ったかと思えばこんな事件に遭遇して、人生とはままならない。

夢から醒めるように現実に帰還する。

気がつけば下がった顔が開いた己の右手を見下ろしていた。なんてことのない手だ。俺はこの手でーー。

心情を殺す勢いで手を握り締め、佐上を見上げる。


「もう少し頑張りたいんだ。ようやく叶った夢を、俺は諦められない」

「またあんな事件に遭遇するかもしれなくてもか?」

「それは……」


言い淀み、それから俺は情けない笑みを浮かべる。


「わからん」

「は?」


佐上は間抜けな表情を浮かべる。俺は思わず笑い声を上げた。


「成るように成れだ。その時のことはその時考えることにした」

「なんだよ、それ」


佐上はあきれた笑みを浮かべる。


「だけど、それぐらいの心構えのほうが良い。長生きするぞ。はあ、悩んだのがバカらしくなる」

「ありがとうな。昨日初めましての仲なのに、気にかけてくれてさ」


普通、ここまで気にかけないぞ。

したとしても慰めの言葉をかけるぐらいだ。

ほんと、良い人だよ。

俺の表情になにか感じるものがあったのか、気まずげに佐上はカゴから手に取ったミカンを持ち上げる。


「ミカン、食べないか?」


俺の答えは決まっていた。


「食う」

岩渡がどんな人物とか、ダンジョン課がなんなのかとか、そういった話は佐上視点で語れています。

気になる方はそちらを読んでください。

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