トラウマ
べつに、BLにしようとしてる訳じゃないです。
ただ、ちょ~~っとハーレムアンチなだけです。
気がつけば病室にいた。
気絶していた訳じゃない。ただ、頭が真っ白になっているうちにここにいた。
頭を上げずとも、ベットの上から見える天井を意味もなくぼうっと見る。
ただただ無心だった。何も考えず、無駄に時間が浪費されていくのを感じていた。
これは現実逃避だ。
冷静な俺がいった。
あぁ、分かっている。そんなの、俺が一番よく分かってる。
右手を顔に置き、目を隠す。
今でもハッキリと思い出す。血溜まりに倒れ、死に行く敵の姿が。命が薄れ、無機質なその瞳はなにも語らない。ただジッと俺を見つめるだけ。
それが堪らなく怖かった。その瞳はなにも語っていない、なのに、俺にはそれが責めているように感じた。
なぜ殺した、お前が死ねばよかったんだと、そう語る瞳から俺は目を逸らすように横を見る。
「ッ!!」
瞠目した。そこには同様に血溜まりに倒れ伏す1人の男がいた。うつ伏せのため顔を窺うことはできない。けれど、俺は知っている。わからない訳がなかった。俺は掠れた声で男の名を呼ぶ。
「空也……」
返事はなかった。それもそうだ、もう既に死んでいるのだから。
耐え難い光景をまえに、俺は目を逸らせなかった。体が言うことを聞かない。逸らせない。
バクバクと高鳴る心臓。心のなかで叫ぶ。
俺に見せないでくれ! これ以上……もうッ!
その時、死体がピクリと動く。注視してなければ分からない動きだ。
そんなはずはない、気のせいだと、言い聞かせるのに確信している自分がいた。
いっそう高鳴る心臓。動かないでくれと、そう願うのにーー。
「ッ!!」
伸びた右手がうごく。見間違いじゃない。
地面に立てられた爪が引っ掻くように動く。それと共に持ち上げられる頭、徐々に露になるその顔は血だらけだった。
固唾を飲んでようすを見守る俺を、空也は恨めしげに睨む。
「どうして助けてくれなかったんですか。どうして見捨てたんですか」
どうしてどうしてと、空也は何度も俺に問いかける。
思わず足が後ろに下がる。揺れる視界、体を揺さぶられた気分だった。
「俺、は……」
なんて答えればいいんだ。
迷う俺に、冷静な俺がいった。
簡単なはずだ。救う手立てがなかったと、間に合う状況じゃなかったと、ただ、そう答えればいいだけだ。
その通りだと思う。ただ、そう言えばいいだけなのに、俺の口から発せられるのは掠れた息遣いだけ。
返事を返す時間は過ぎた。よりいっそう恨みを籠めた瞳で俺を睨み付けながら、空也は床を這いつくばりながら俺へと近づく。
「ぁぁ……!」
口から漏れる悲鳴。俺はあまりの恐怖に腰を抜かして尻餅をつく。
体に力が入らない。腕が、体が、プルプルと震える。
目を閉じようとして、逆に目を見開く。予期しない反応に恐怖が強まる。
「はあはあはあはあはあはあ」
すごい勢いで消費される酸素。不足した酸素を補おうと荒い息遣いで酸素を吸収する。
気絶できることなら気絶したかった。
今すぐこの悪夢から脱出して、現実へと帰還したかった。なのに、できない。
ついに空也がたどり着く。俺の足に触れるひんやりとした冷たい手。触れた場所から体が凍っていくのを錯覚した。
「あ、あぁ……!」
極限の恐怖。足を起点に、徐々に這い上がってくる。その歩みは遅いものの、それが逆に恐怖心を煽る。
目前に迫る空也の顔。息遣いさえも感じる距離で、空也は憎悪の宿った瞳で俺を睨み、恨みをたっぷり籠めた声でいった。
「あんたが死ねば良かったんだ」
今のところ凄く順調。稀に見るレベルで。罰が当たらないよね?




