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現代ダンジョン冒険譚  作者: 冬空
ソロ編
18/31

あの後 side佐上

紳二郎が救急車へと乗せられ、搬送されていくのを見送った俺は、到着した警察官と合流した。


「お待たせしました」

「いえ、こちらこそお辛いなか対応していただきありがとうございます。私、ダンジョン課の岩渡(いわたり)と申します」


挨拶とともに差し出された名刺を受け取る。

ダンジョン課とはその名のとおり、ダンジョンで発生したあらゆる出来事を管轄している部署となる。

創立してからまだ数年と日が浅く、系統化もできていないため忙しいと、以前、他のダンジョン課の方から話を聞いたことがある。


「これはご丁寧にありがとうございます。私、フェルラン社所属の佐上と申します。緊急のため名刺を所持しておらず、挨拶のみとなってしまい申し訳ない」


フェルラン社とは、複数の会社が出資して作られた休憩所を管理・運営するためだけに作られた会社だ。

俺はそこに雇われ、派遣という形で今の職場にいる。


「いえいえ、謝らずとも大丈夫です。こちらも承知しております。それより、具体的なお話をお伺いしたいため、車内にご移動お願いしてもよろしいですか?」


俺は了承の返事を返して岩渡の案内の下、パトカーへと乗車する。

位置は後部座席、互いに向き合う形で会話がスタートした。


「詳細な状況をお聞きしてもよろしいですか? あっ、可能な範囲でよろしいので」

「承知しました。最初はーー」


その言葉から、俺は事の始まりから終わりまで、覚えてる限りの状況を岩渡に伝えた。

俺が話す内容を岩渡はノートに書き留め、わからない場合はその都度聞くという方法でスムーズに会話は進み、長い語りにも関わらず気がつけばあっという間に終わっていた。

疲弊した喉を癒そうと、岩渡からいただいたお茶で喉を潤す。

ゴクゴクと音をたて減ってゆくお茶、口を離すころには半分以上がなくなっていた。

ペンを走らせる岩渡の手が止まる。


「お話しいただきありがとうございました。提出する資料の参考にさせていただきます。もし、可能であればお電話番号をお聞きしてもよろしいですか?」

「電話番号はーーーーです」

「ありがとうございます。可能であれば、紳二郎さまにもお話しを伺いたいのですが」

「止めたほうが良いかと」

「ですよね」


俺の返答に、岩渡は苦笑する。

無理とわかっていても、立場上きかないわけにはいかない。

そんな警察官の苦労を垣間見た。


「事情聴取は以上となります。なにかお聞きしたいことはありますか?」

「では、1つーーー紳二郎さんの罪はどうなるんでしょうか?」


これは必ず聞こうと思っていたことだ。

自衛のためとはいえ、人ひとりを殺害してしまった。

それを警察は、岩渡はどう判断をくだすのか、瞳を見つめて返答を待つ。

岩渡はフッと笑う。


「結論から申しますと、罪には問われません。地上ならまた別ですが、ダンジョン内のできごとですので」

「では、捕まることはないと?」

「はい、ご安心ください。それどころか犯罪者が減ってありがたいほどですよ。ご本人の気持ちを思うと素直に喜べませんが」


最後は伏し目がちに岩渡はそう語る。

頭に想起される焦燥した紳二郎の様子、その光景に俺は胸が締め付けられ、顔が歪むのを自覚する。


「そう、ですね………。思い詰めなければ良いと、私もそう思います」

「なにかあれば連絡してください。対応いたします」

「ありがとうございます」

「他になにかありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では、降りましょうか」


その一言で互いに車から降りて、合流する。

岩渡は車を背に立ち、俺と向かい合う。


「この度はお付き合いいただき、ありがとうございました」

「いえ、お役に立てたのなら幸いです」

「後のことはこちらで対応いたします。今はゆっくりとお休みください」

「ありがとうございます」


その言葉を最後に別れ、俺は人気のない道で壁に背を預ける。

目的があってここに来たわけではない。ただ静かなところで落ち着きたかった。

ため息とともに手にもった缶コーヒーを開ける。

これは道すがら自販機で購入したものだ。

開け口一杯、口の中に広がるほろ苦さ。思わず顔をしかめてしまう。


「やっぱり好きになれないな」


コーヒーを飲むなら牛乳で割るのが一番だと、常々おもう。

それでも飲む手は止めない。

今はこの苦さがちょうど良かった。

ちびちびと飲みながら空を見上げる。


「明日、なんて説明すれば良いものか……」


ポツリと心の声が漏れる。

ああいった犯罪に遭遇するのはなにも、今回が初めてではない。

職業柄こういった出来事にはよく遭遇する。ただ、今回は一味違った。

死傷者がでた。もちろん、これも初めてのことではない。ただ、紳二郎はちがう。

あの焦燥した様子、自分を責めてなければ良いが……。

仲間や人の死をまえに、心が折れていく者は多い。トラウマになる者も何人もいた。俺はそんな光景を何度も目にした。

今の紳二郎の姿は彼らと同じだ。救えなかったことを嘆き、苦しみ、そして病む。その果てに待つのはーー。


「はぁ……ダメだ。休まりそうにない」


嫌な思考を振りほどくように頭を振る。

休むつもりが全然休めていない。それどころか酷くなる一方だ。

会社にも連絡しなければ。

結果的に良かったとはいえ、無断で要請した。馬鹿にならない出費に上司になんと言われるか。

思わず溜め息が漏れてしまう。


「あと一踏ん張り。それが終わったら少し贅沢をしよう」


貯蓄から少し崩して回転寿司にいくのもありだろう。

久々の外食とあって息子も喜ぶはすだ。

そんな姿を思い浮かべるだけでやる気がでる。不思議なものだ。

思わず笑みが漏れる。

壁に預けた背を離して喧騒の聞こえる方へと向けて歩き出す。


「お父さん、もう少し頑張るよ」


なんて、届くはずのない言葉を呟いて。

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