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現代ダンジョン冒険譚  作者: 冬空
ソロ編
17/31

神は微笑む

書いてる最中の作者

φ(..)(これ、いつ終わるんだろう)

嬉しい声援を背に、俺は敵に相対する。

敵は武器を手にしているものの構える様子はなく、ニヤニヤと笑みを浮かべながら愉しげに俺を見ている。

強者故の傲りか、それともあえて隙を見せてるのか。

きっと後者だろうな。

俺は自嘲の笑みを漏らす。自分でいうのもなんだが、俺は弱い。敵が本気なら、もうすでに命はなかったはずだ。

それが悔しくあると同時、予想通り過ぎて笑えてくる。

俺が今すべきことは戦うことではなく、時間を稼ぐことだ。敵は増援が来ることを知らない。想定できたとしても少人数だろう。それも、戦いなれてない冒険者をイメージしてるはずだ。でなければこんな低層で事を起こしたりしない。初心者を狩ろうとする敵の思考が見え透くようで嫌悪する。

顔が歪むのをグッと堪えて、俺は時間を稼ぐべく口を開く。


「なぁ、1つ聞いても良いか?」

「何かな?」

「ーーお前、俺になにをした」


仲間想いの主人公であればここで「どうして殺したんだ!」なんて言うのかもしれない。

だけどさ、そんな分かりきったことを聞いてなんになる?

聞いたところで変わらないし、変えることもできない。なら聞く意味ないと、つくづく思っていたんだ。

だから聞くのは俺が見たあの光景について。手口もまったく不明な、いつかけられたかも分からない。後どれぐらい使えるのかも、どんな効果があるのかも不明な幻についてだった。


「おっ、気になる? 気になっちゃうよね? でもざんね~~ん! 俺も知らないんだわ! めっちゃ効くからってオススメされて買ったんだけなんだよね~。いや~、教えたいのは山々なんだけどな~。ほんとごめんねぇ?」


大袈裟な反応で、微塵も残念そうな様子も見せずに謝ってくる。思わず殴りそうになったが、それでは相手の思う壺だ。剣をぎゅっと握りしめて堪えるが、堪えきれない分が舌打ちとなって漏れる。


「でも、そうだなぁ~。これは麻薬の一種だってことと、これを摂取したら幸せな夢を見れるってことは知ってるかな? それをちょっと仕込んでみたんだけどぉ、いや~、良いものが見れたわ。 なぁ、どんな夢を見たか俺に教えてくれよぉ。あの絶望顔、そうとう良い夢みれたんだろぉ?」

「幸せな夢……」


俺が見たあの光景が俺にとって幸せだと?

ふざけてると言いたいのに、納得してる自分もいる。

たしかに幸せな夢なんだろうな。

救えなかった者を救い、感謝の言葉を送られる。それは確かに、俺が望んでいた光景だった。

それが夢でなければどれだけ良かったか。

心を覆う重苦しい曇天。胸が締めつけられる。行き場のない思いを、奴へと向かわんとする思いを下唇を噛むことで堪える。

我を忘れるな。冷静になれ。そう何度も自分に言い聞かせる。

そうして無理やり落ち着つかせ、軽く自分の胸をたたく。

なぁに、すぐに発散させてやるから、それまで熟成させとけ。

重苦しい思いを吹き飛ばすように明るく声をかけ、剣を下に、スモールシールドを胸のまえに構える。

会話での時間稼ぎも限界に近い。今はまだなんの疑問も抱いていないが、長引けは違う。バレる訳にはいかない。バレたらそれこそ逃げられる可能性がある。

そうはさせないと、やる気を漲らせる。お前はここで倒す。次の犠牲者を生まないためにも、俺が足止めしなければならない。


「教えてくれないなんて酷くない? でも、やっとやる気になってくれたみたいで俺嬉しっ! さっ、先手は譲ってあげる。好きに攻撃してみて」

「じゃ遠慮なく!」


叫ぶと同時、俺は走り出す。

宣言通り、敵は武器を構えることもせず、ただ突っ立って俺を笑って見ている。

その余裕がイラつく。舌打ちと共に剣を後ろへと向けて秒数をカウントする。

3、2、1ーー今!

俺は飛び上がり、剣を上に持ち上げてありったけの力をこめて振り下ろす。


「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


狙うは一点。敵の頭。殺す勢いで放たれた一撃はしかし、危うげなく受け止められる。


「おっ、やるねぇ。でも弱い!」

「くっ」


押し返される!

踏ん張りも効かない空中とあって、力に押し負けた俺は後方へと吹き飛ばされ、受け身もとれずに背中を地面に打ち付ける。


「っぅ!」


痛みにうめく。

想定外だった。防がれたとしても、そのまま連撃へと繋ぐつもりだった。それがまさか弾き返されるなんて。

受けたダメージは軽微。痛む背に顔を顰めながらも俺はすぐに起き上がる。

開いた距離は3、4メートルといったところか。

だいぶ離されたな。

改めて武器を構え直しながら相手の様子を窺う。


「おっ、無事だね。じゃあ、今度はこっちから行く、よっと!」


そういうや否や足を一歩踏み出し、気がつけば目の前にいた。


「ッ!?」


スローモーションで捉えた上段からの振り下ろし、俺はそれを反射的にスモールシールドを振りかざして防ぐ。

金属音が鳴る。防御が間に合った。そのことにホッと安堵を吐く暇もなく、無理な体勢で受け止めた俺はまたも吹き飛ばされて壁に激突する。

ドン! となる衝突音。瞬間、頭が真っ白になり、地面にぶつかる衝撃で意識を取り戻す。フラつく思考、頭に手を宛がえば血がベッタリと張りつく。


「はあはあ」


なんだあの速さ。まったく見えなかった。

なんとか間に合ったから良かったものの、次は防げるかどうか。

実力に差があるのは分かりきっていた。だけど、その認識は甘かったのだと分からされる。

死ぬかもしれない。それがどうした。

右手を壁に添えることで支えとして俺は起き上がる。

そんなもん、戦うまえから分かっていた。分かったうえで俺は挑むと決めたんだ。この程度、何度だって乗り越えてやるよ。それにな。

俺はチラリと佐上のいる方を見れば、敵から見えないようにスマホの画面を俺に向ける。そこに書かれていた文字を見て俺は密かに笑う。画面にはこう書かれていた。


『要請が受理されていた。到着まであと数分かかる。頑張れ、ヒーロー』


ありがとう。俺は心の中で礼を伝え、顔をあげて敵を見る。

奴は俺が起きたのをみて嬉しげだ。ペン回しのように弄んだ剣をつかみ、切っ先を俺に向ける。


「どうする、降参する? それとも戦う? 戦っちゃう?」

「降参したら見逃してくれるのかよ」


そんなはずはないだろうと、確信したうえで問いかければ敵は笑う。


「痛めつけてから殺すに決まってるじゃん。逃がしたら俺の顔がバレちゃうからね!」

「はは、だろうな……まっ、逃げるつもりなんて元からなかったけどな」

「ハハッ! 良い! ほんとうに良いよ! ああ! 早くみたい! 意志を折られて絶望する表情をさ!!」


再度の攻撃、しかし、さっきとは違う。

目で追える? 動きが遅くなってるのか?

敵は負傷していない。なのにこの速度。

まさか、手加減されてるのか?

相手の意図が読めず困惑するも、攻撃を防ぐ。


「ぐっ!」


威力はそのままか!

体を襲う衝撃。壁を背にすることで吹き飛ばされはしなかったものの、逆に行き場のない力が体の中で暴れて骨がミシミシと音を立てる。

堪えようと噛んだ下唇を切り、血が溢れる。それでもなんとか攻撃をいなす。


「はあー、はあー」


物凄く疲れた。たった一撃を凌いだだけでこれか。これをあと数分。無茶にも程がある。

なのに、どうしてかな。


「およ? どうして笑うのかな?」

「笑ってるか……そうか。いや、べつに深い意味はないんだ。ただ、これはーー」


かつて憧れた主人公を思い出す。

彼は、敵軍のなかにいながら仲間のために戦い続けて援軍が到着するまでの時間を稼いでみせた。まさしく孤軍奮闘の活躍。当時の俺はそんな姿に憧れた。

不謹慎ながら俺はその状況を追体験できることに喜んだ。

あの時の主人公の気持ちはこんな感じなのかと、理解できて嬉しかったんだ。

ほんとうに不謹慎だと思う。知り合いが殺され、1人は深い傷を負っている。それに対する強い怒りだってある。

なのに、興奮が勝る。ダメだと、そう思うのに深い笑みを浮かべてしまう。


「ッ!」


初めて敵が慄いた気がした。後退り、俺に対して武器を構えた。これも初だ。いまの俺はそんなに怖いのだろうか。

少しショックを受けて顔を撫でるが、自分がどんな表情を浮かべているか分からなかった。

まっ、どうでも良いか。

これはチャンスだ。千載一遇といっても過言ではないだろう。

相手の勢いは削がれ、俺の勢いは上がってる。

俺の手で復讐するなら今しかないと思った。

俺は今からバカなことをする。俺でもそう思うのだから、他人からしたら余計にそう感じるだろうバカなことだ。

スモールシールドの金具に触れて取り外し、落下に任せて地面へと置く。響く金属音。これで軽くなった。

敵は意味が分からないとばかりに俺を見るが、気がついているのだろうか?


「隙だらけだぞ?」

「はっ?」


俺ができる最速で近づき、両手で掴んだ剣で下段からの振り上げを行う。その攻撃は簡単に防がれてしまうが、咄嗟の防御でバランスも取れずアンバランスだ。

行ける!

俺は雄叫びを上げた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ぐっ!! なっあ!?」


ありったけの力を籠めて剣を押し返す。最初こそ拮抗していた鍔迫り合いだが、やがて俺の有利となり敵の足が宙に浮く。もうここまでくれば後は押しきるだけだ。俺は限界まで力を振り絞って敵を吹き飛ばす。

壁に衝突する音、立ち上る土煙を見て俺は膝をつく。


「はあーー、はあーー」


腕に力が入らない。震えてさえいる。これではもう戦えない。


「ははっ」


だけど、一太刀浴びせることができた。俺の手で。あの憎い奴に。

これでやられたとは思わない。あの程度では大ダメージとはならないだろう。

それに応えるようにボロボロと崩れるような音を立て、誰かが立ち上がる。土煙が邪魔をして影でしか窺うことはできないが、間違いなく奴だろう。

俺は震える手で剣を掴み、それを支えに立ち上がる。


「ビックリしたわ。まさか、こんな雑魚に俺が押されるなんてさーーーーお前だけは惨く殺してやるよ」


土煙が晴れ、顕になったその顔に笑みはなかった。怒りで歪んだ顔はまるで鬼のよう。普段なら怖いと感じる顔なのに、今はなぜだか怖くなかった。

これがアドレナリンってやつか。

心なしか震えが収まった気さえした。フラつく足取りで不格好に武器を構える。

敵はすでに走りはじめていた。殺意の籠った眼差しで、俺を殺さんと走るその脚はーーとても遅かった。

手加減されている訳ではないだろう。あの台詞を言って手加減するのは意味が分からない。

なら、これはどういうことか。

まさか、ゾーンってやつか?

創作に止まらずリアルでさえあるとされる、一種の極限状態。あらゆる攻撃が止まってみえ、知覚できる現象。俺は今、その状態にいるのか。

あの時遅く感じたのはこれか。

先ほど手加減されたように見えた攻撃もこれなら納得できる。

にしても、覚醒か……。


「ふっ」


これ以上なく興奮する。この土壇場での覚醒、これはまるでーー。


「主人公見たいじゃないか。なぁ、そうは思わないか?」


俺のまえで振るわれる一撃、俺はその一撃を最小で避ける。体を掠める風切り音。からぶった一撃は地面へと当たり金属音を響かせる。


「は?」


敵は間抜けな表情を晒す。

それも当然だろうな。防がれることは想定できても、躱されることは想定外だったろうからな。

滑稽な表情を浮かべる敵に向けて、俺は嘲笑うような笑みを浮かべる。


「どうした、調子でも悪いか? 遅すぎて簡単に躱せたぞ」

「ッ~~~~!」


怒り心頭。まさしくそんな表情で連撃を叩き込んでくるが、俺はその悉くを避け、隙をみては攻撃を加える。

不思議と震えはなかった。今ならいくらでも剣を振るえる。これもまたゾーンの影響か。

あとが怖いな……。

終わったあとに来るだろう副作用に怯えながら確実なダメージを積んでいく。

傷が増えれば増えるごとに敵の冷静さは失われていく。


「どうなってる?! どうして俺の攻撃が当たらない?! なぜだ!!! なぜなぜなぜなぜなぜーーー!!」


もはや技量なんてない、我武者羅の攻撃。

予測不能の攻撃。だけど、いまの俺にとってそれは、隙だらけの避けやすい攻撃でしかなかった。

決着はあっさりと着く。あれだけ煽り、嗜虐的な笑みを浮かべていた敵は今や身体中血だらけとなり、溢れた血で作られた血溜まりに仰向けに倒れ伏す。殺してはいない。死なない程度の痛手を与えただけだ。だけど、このままでは死いずれ死んでしまうだろう。

俺は肩で息をしながらその姿を見下ろす。


「はあはあはあ」


自分の手で掴みとった勝利。復讐も果たせて万々歳、とはならない。アドレナリンが切れ、身体中のいたるところから痛みを訴える。

立つのもやっとな俺の胸中を埋め尽くすのは喜びではなく、恐怖だった。

人を殺してしまったかもしれない。

一般社会で生きてきた俺にとって、それはもっとも忌避すべきことだ。

無論、この職に就くにあたってその覚悟もしていた。だけど、それは上っ面だけの覚悟だった。

己の剣を見下ろす。人の血が付着し、血で塗られた己の剣を。


「ぁあ……!」


俺はそれを反射的に放り捨て、尻餅をつく。力がこもらない手で投げた剣はすぐ近くでカランカランと音を立て、床に倒れる。

俺はその剣から目を逸らせなかった。

常識が俺を叱咤する。

なぜ殺した。殺す必要はなかったはずだ。

死ぬかもしれなかった。だから仕方がなかったんだと反論するものの、聞く耳を持たず。貶すように俺を叱る。

俺はそれが嫌で、目の前の光景が見たくなくて、目を閉じて耳を塞ぐ。

それでも止まない声。それから逃げるように心の奥底へと逃げようとした俺を止めたのは揺さぶりだった。


「ーーい! しっかりしろ!! 大丈夫か!?」


声のした方を見れば、そこにいたのは佐上だった。

幾ばくかの理性が戻る。

動いて大丈夫なのか?

そう聞きたいのに、口から漏れるのは掠れた声だけ。ただパクパクと口を開閉する俺のようすを見て、なにか感じるものがあったのか、佐上は悲痛な表情を浮かべる。


「増援が来た。後のことは任せて帰るぞ」


俺を無理やり背負い、歩き出す佐上の横顔を見ながら俺は思う。

いったい何時の間に。そんな疑問を抱くと同時、俺は咄嗟に聞いた。聞いてしまった。


「な、なぁ、アイツは……俺が斬ったアイツは、どうなったんだ……?」


佐上は足を止める。前をむくその表情からは感情を窺いしることはできない。

だけど、やがて佐上はこちらに振り向き、覚悟を決めた表情で口を開く。


「死んだよ」


頑張った。作者頑張った。偉い!

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