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現代ダンジョン冒険譚  作者: 冬空
ソロ編
15/31

いやな予想ほどよく当たる。

現場へとたどり着いた俺達を待っていたのはモンスターではなく、人であった。

ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべながら俺たちを見る男の奥には、血を流してたおれる男性の姿。その光景をまえに俺は顔が歪む。

そんな俺を他所に、佐上は突撃と同時に攻撃をしかけるも、男の危うげな剣で受け止められる。


「こっっっわ! 急に攻撃してくるじゃん。卑怯すぎない?」


おちょくるような言葉を無視し、佐上は男と鍔迫り合う。

体勢は敵の不利。アンバランスな体勢では力を込めづらく、耐えることも難しい。佐上はこのまま押し倒そうとさらに力を込めるが、逆にそれを利用された。

剣に込めていた力を抜く。急に抜けた力に佐上は一瞬虚を突かれ、思考が止まる。それだけで十分だった。

敵はニヤリと笑い、隙だらけの腹に蹴りをかます。防御が間に合うかどうかの一撃。決まったかと思われたその一撃は、瞬時に後退することで躱される。


「およ?」


敵は予想外の結果に間抜けな顔をする。対し、佐上はゆっくりと呼吸を落ち着けながら油断なく剣を構え、敵から目を逸らすことなく俺に声をかける。


「紳二郎さん、ポーションは持っていますか」


ポーション。

ダンジョンで採取された薬草を使用することで作られた回復薬。傷の治癒が可能であり、効果にもよるが、欠損すらもなかったことにできる。値段は安くとも1万円から、最上となると想像もつかない値段となる。

冒険者をやるなら必須アイテムであり、俺も保険として常に持ち歩いている。


「1本だけなら」

「では、治療をお願いしても良いですか。敵の注意は私に向けさせます。その隙を見て行ってください」

「分かりました。ーーー無理だけはしないでください」


会話はそれで十分だった。俺の言葉に佐上は雄叫びをもって応え、突撃する。

上段から振り下ろされた一撃はまたも防がれるが、先程とは異なり鍔迫り合いには持ち込まず、連撃を繰り出す。


「よっ、ほっ、あぶなっ」


上下左右から襲いくる攻撃を敵はゆらりと舞うかのような動きで躱し続ける。その表情には焦りはなく、まだまだ余裕が伺えた。

ーーー強い。

もし、俺があの攻撃を受けていたとしたら数秒も持たずにやられている。それほどに佐上は強く、俺は弱かった。

その事実に唇を噛み締め、俺は前をむく。

その先には倒れ伏す男性、その体からは今もなお血が溢れ出ていた。

たどり着いた俺は傷口にポーションをかけようと男性の体を起こし、絶句した。


「ーーーーくう………や?」


体はボロボロ、顔も傷がつけられ誰だかわからない。それでも、俺はそれが空也だとわかった。わかってしまった。


『これですか? むかし親父にプレゼントしてもらったんですよ。俺のお気に入りっす』


そういって笑った空也の首元には、糸の通された指輪がキラリと光っていた。

帰り道に何気なく聞いた質問だった。その時は「似合ってる」なんて言葉を返し、話は終わった。他愛のない話のつもりだった。それがどうして、ここで生かされるのか。

俺はきっと今、苦渋に満ちた表情を浮かべている。昨日会った者が次の日には見かけなくなる。それはよくある光景だと、教官は語っていた。

俺は今、そうなる直前にいる。震える手でぎゅっとポーションを掴む。

かける箇所は傷口が深いところを優先に、配分を意識しながらかけて行く。

神経を削る作業。動いていないというのに体からは汗が噴き出す。手元が狂わないよう、息を整えながら慎重にかけて行けば、深かった傷は癒え始め、次第に痕が塞がって行く。

ここまでは順調。ポーションにもまだ余裕がある。


「傷は治す。だから死ぬなよ!」


俺の声が聞こえてるかは分からない。それでも、なにも言わないよりはマシと思って声をかけ続ける。


「まだしたい事があるんだろ! 大成して大金を稼ぐと言っていただろ! 抗って、死の底から這い上がってこいよッ!!」


何度も何度も声をかける。なのに、どうして、脈が弱くなる。理性的な俺が囁くように言う。

もう無理だ。諦めろ。血を流し過ぎたんだ。傷が治ったところで、血が足りなければ失血死する。当たり前の話だろ?


「わかってる、そんなことぐらい………!」


それでも諦められなかった。まだ死んでいない、なら、まだ助かるはずだ。そんな、どうしようもない淡い希望を抱かずにはいられなかった。

ポーションの中身は残りわずか、傷はほとんど癒えた。血も流れていない。

残りを口の中に流す。少しでも活力の糧にしたくてそうした。

空になったポーションを捨て、膝で立ち上がり空也の胸に両手をおく。心肺蘇生の体勢だ。

無駄かもしれない、なんて考えなかった。ただがむしゃらに、生きてほしいと願って何度も胸を打つ。

合間には人工呼吸を行うなど、出来る限りのことをした。それが功を奏したのか、空也のまぶたがピクリと動き、ゆっくりと目が開かれる。

最初はただぼぅっと天井を見つめるだけだったが、ふと俺を見た空也は微かに口角を上げて笑った。


「どうしたんすか、そんな表情をして」

「目が覚めたか!」

「ちょっ!」


俺は安堵から思わず抱きついてしまった。

空也は苦しいとでもいうに俺の背を叩き、離せと主張する。俺は慌てて離せば、空也は「びっくりしたっすよ」と苦笑しながら言った。

俺はすぐに頭を下げる。


「配慮が足りてなかった!」

「良いですって。紳二郎さんが俺を助けてくれたんすよね?」

「まぁ、そうなるな。でも、もっと早くに気づけて来れてれば死にかけることなんて……」


それこそ俺がもう少しこの階層にいたのなら気づくことも、逃がすことだって出来たはずだ。

その罪悪感から表情が暗くなる俺に、空也は笑っていう。


「ははっ。そんな暗い表情しないでくださいよ。俺はべつに怒ってないですし、逆に助けてくれて有りがたいんすよ。俺の方こそお礼を言わせてください。助けてくれてありがとうございます!」


空也は頭を下げて感謝を俺に告げる。

俺はいま、どんな表情をしているのだろうか。

感情もよくわからない。嬉しさと申し訳なさ、安堵の気持ちがグチャグチャに混ざり合った言葉にし難い気持ちが胸をうずまく。

それでも、自然と返す言葉は浮かんだ。


「あぁ、助けられてほんとうに良かった」


ーーそんな都合の良いことがあると思うのかい、紳二郎?

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