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現代ダンジョン冒険譚  作者: 冬空
ソロ編
11/31

新たな黒歴史

ひゃっはっ!

「初めまして!」


アイテムを回収していたら背後から急に声を掛けられた。

声に聞き覚えはない。警戒心を抱きながら振り向けば、そこにいたのは青年だった。

顔にも見覚えはない。声をかけたことから敵意はないのだろう。

それでも、なにかあるか分からないダンジョンで油断は大敵。警戒心を強めながら俺は口を開く。


「君は誰だ?」

「俺ですか? 空矢(くうや)っていいます。よろしく!」


ニコッと、爽やかな笑みを浮かべて空矢と名乗った青年は俺に手を差しだしてくる。

コミュ力が高いと思った。他人に、それも初対面にも関わらず、こうして声をかけ、握手を求められる者は中々いない。

職場の同僚を思い出す陽気な雰囲気に懐かしさを感じつつ、俺はその手を握り返す。


「よろしく。俺は紳二郎だ」

「おっ、珍しい名前だ。初めて聞きましたよ、紳二郎なんて」


素直な感想に苦笑しつつ、俺は訂正する。


「いや、これ名字なんだ」

「えっ? これ名字? ほんとに?」


目を見開いて何度も聞いてくる空矢に俺はうなずく。


「マジっすか~~。こんな名字があるんだ。へぇ~、由来ってあるんですか?」

「なんでも、遠い祖先に紳二郎っていう人がいたみたいで。その人が凄かったから、その名にあやかったらしい」

「へぇ、何したんすか」

「なんでも、鯨を釣り上げたとか、鬼を退治したなんて話もある。それこそ、話に(いとま)がないぐらいには伝説を作ったそうだ。実際、本当だったかは分からないけどな」

「いやっ、そんな逸話残ってるんだから幾つかは本当だって!! 凄い人の名前をあやかるとか英断ですよ! 英断!!」


少年のように嬉しそうにされると、なんともいえないむず痒い気持ちになる。

大抵、この話をすると鼻で笑われることが多く、ただ純粋に喜んでもらえるのは嬉しかった。

悪い子ではなさそうか……。

祖先のことを褒められた程度で、警戒を緩めるのはチョロ過ぎだと思うが、それで本当に敵なら、空矢の演技が上手だと認めるしかない。

だとしても、ただでやられるつもりはないと思いつつ、話題を変えるべく口を開く。


「ところで、空矢と呼んでも良いか?」

「良いですよ! 俺も紳二郎って呼んでも良いですか?」

「良いよ。話は変わるけど、もしかして、さっきのアレって見てたか?」


アレ、というのはもちろんゴブリン達との戦闘のことだ。

自分でいうのもなんだか、あんなイタいことをいう姿を見られたとしたら、羞恥心で死にたくなる。

そうでないことを祈りつつも、たぶん見ていたのだろうと、なんとなく察しながら聞けば、返ってくるのは興奮した声だった。


「見てましたよ! 大群に向けて駆けて行く姿! 囲まれながらも果敢に攻める姿まで!! 特にっ、あの台詞!!」

「ま、まって……!」

「この俺を倒したくば死力を尽くせ! 生き足掻いてみせろ!! さもなくば、死ぬのはお前たちだ!! あの台詞は痺れましたよ!!」


死にたい。今すぐにでも。

まさか、あのノリで言った台詞を一言一句間違わずに覚えてるとは……。

改めて聞くとその台詞のイタいこと。中学以来の新たな黒歴史を前に、俺は頭を抱えてしまった。

あはっ!こいつにき~~めたっ♡

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